Feelings











               オレンジ色に染まった階段に腰掛けて小さく吐息をついた
               ふと下を見下ろせば授業を終えて帰っていく生徒たちが見える

               いつもならばこの時間はラケットを握ってボールを打っているところ
               今日は直々に忍足をしごいてやろうと思っていたのに、自分はこんなとこにいる
               レギュラーたちの手によって、誕生日くらいはゆっくりしろと言われ、ここに連れて来られた


               「アイツら・・・単に部活休みたかっただけだろ・・・」


               部長である自分が不在の今、部活は休まざるを得ない
               よくも榊を納得させられたなと考えたりしている内に夕日が差してきて
               家に帰っても良い状況なのだが、なんとなくここにいた


               「一人・・・か」



               自分の傍には誰もいない
               夕日が沈んでいく音だけが響いてく
               いつもは騒がしいと思う部員の奴ら

               何より、ここにはがいない



               彼女がいなくなるのはいつものことだった
               別に、放浪癖があるとか、跡部のことをそんなに想っていないとかそういう訳ではなくて
               甘えたい時にはしっかり甘えて、忙しい時にはそっちにはいけないと訴えてくるだけ

               それを不満に思うわけではないが今まで『孤独』という感情を味わったことのない跡部には
               どうしようもない気持ちと、その気持ちを上手く伝えられない自分の不器用さに腹が立った



               「情けねぇな…」
               「何が?」


               誰が来たかなんてすぐに解った
               それでも驚かずにはいられない、たった今まで彼女のことを考えていたのだから



               「…別に。それよりお前、いままでどこ行ってた」
               「お兄ちゃんの所。一緒に帰ろうと思ったんだけど、お兄ちゃん先生に呼ばれてるんだって。
                だから少し待ってようかなー、と思って」


               俺様を暇つぶし代わりにしやがって
               そんなことが許されると思ってんのか?アーン?


               「跡部、何か今日元気ないね」
               「…そうか?」
               「うん。部活も休みにしちゃうし。どうしたの?」


               ……は?


               「テニスもしたくないほど重症なの?」
               「ちょっと待て。お前、何で部活が休みなのか知らないのか?」
               「うん。…え?跡部がそう言ったんじゃないの?」



               きょとん、とした表情でこちらを見つめる
               この様子からして、忍足たちが部活を休みにさせたという真実を知らないようだ



               「……、お前今日が何の日か知ってるか?」
               「ん?………んーと、あ!あたしの家の近くのスーパーがタイムセールスやる日!」
               「………………」



               さすがは宍戸の妹、と言ったところだろうか
               庶民の子に加え、若い主婦という匂いがする



               「今日は何日だ?」
               「10月4日、でしょ?」
               「…そうかよ」



               そう言ってから辺りの空気が下がっていくようには感じた
               それは跡部が醸し出している冷気のせいなのだが、は気づいていない
               自分の誕生日を忘れられているのに、スーパーのタイムセールスは覚えている

               一体どういう記憶力してんだ…。

               小さくため息をつきながらそう思った

               ふと、肩に重みを感じて手を伸ばせば、触り心地の良い黒髪に触れて、
               『寂しい』という感情が嘘のように消えていった

               彼女の柔らかな頬から伝わる温かさが
               『自分に腹が立つ』という感情を包み込んでいく



               「跡部は…あったかいね」
               「あん?」
               「あったかくて、安心する…」


               まるでその温かさを全てをその身に受けたいとばかりに擦り寄ってくる
               自分に全てを委ねて幸せな表情を浮かべている彼女をずっと抱きしめていたくなった
               『好き』という感情に、『愛す』という想いに自分の心を全て支配されていくのを感じて
               いくら引き剥がしても絶対に消えない、そして消えないことが逆に自分を喜ばせる



               「来年は、覚えておけよな。それで無かったことにしてやる」


               言葉の意味が解らない、と首をかしげるに耳元で囁いた


               「お前に出会うという運命を作り上げたこの日に、感謝してる」



               跡部の声に酔っているのか、の肩は少し震えている
               その肩を抱き寄せ、どこにもいかせないという思いを込めて優しい口付けを落とした



               「ずっと俺様の傍にいて、楽しませろよ…」



               記念日なんて、ずっと関係ないと思っていた
               ただ何かが起こったということを知らしめるだけの称号
               何もかもを冷めた表情で見つめては、視線を逸らした


               だけど

               君に出会うために必要だったという日なら
               何よりも代えがたい記念日

               何よりも代えがたい宝物



               「…誕生日おめでとう」
               「バーカ、遅ぇんだよ」


               せめて自分に『孤独』という感情を教えてくれた君に感謝の気持ちを送ろう

               自分が生まれてきたこの日に心からの賛辞を述べよう


               腕の中に確かにある温もりに、身を委ねた


























あとがき

跡部、お誕生日おめでとう!
今回のヒロインは宍戸妹です。やっぱ彼女は書きやすい!でも跡部の誕生日ぐらいは覚えててあげて!
セカンドアルバムを聞いて、跡部って『孤独』って言葉が似合うなー、と。
孤高って言葉はすごく気高いけれど、『寂しい』んじゃないかな?って思いました。
それでも俺様な道を行くあなたはすごい。きっと多くの跡部ファンは思ってるでしょう!
これからも頑張ってね、跡部。

Happy Birth Day to Keigo Atobe