8月某日

       神奈川県内某駅を出発した新幹線の中は、恐ろしく賑やかだった…





       「これは…ちょっと気を抜けないですね、先生」
       「全くだ」


       顧問、高頭は愛用の扇子で扇ぎながら頭を押さえた
       ぎゃあぎゃあと騒ぐレギュラーを始めとした部員たちはまず数が多い
       列車を一台丸々借りておいてよかったと思う

       海南大付属高校バスケットボール部は、県大会1位を通過したご褒美と称して、
       週末から1泊2日で行く県外の温泉旅館へ向かっていた

       この計画は1年の清田から始まったわけであるが、何故かその話が常勝を果たしたことにより
       ご機嫌だった高頭に了承を下させ、今に至るわけである


       「せめてレギュラーだけにすればよかったですね…これでも選りすぐったんですけど…」


       高頭の隣の席で心配そうに車内を見渡すのはマネージャーの
       学年はレギュラーの神と同じく2年で、神の幼馴染みでもある


       「あ、さん見っけ!監督なんかの隣じゃなくて俺の隣に来てくださいよー!」
       「信長くん」

       ひょこっと前の席から顔を出した信長の一言に高頭に青筋が立ったのは言うまでもない
       だがそんな様子も悪びれなく、小さい子供のように笑っている


       「俺らんとこ、ダウトやってるんスよ!さんも混ざってくださいよ、神さんが強くって!」
       「信長が弱いんだよ。すぐ顔に出るもんなぁ…」
       「ぐっ」
       「でもが入るんなら俺も弱いかも…」
       「え!?まじっスか!?ほらほらーさんー」
       「分かった分かった。じゃ、もうちょっとしたらそっち行くね」
       「やった!」


       小さくガッツポーズを決めると信長は元の席に帰っていった
       どうやら割りと奥の方でやっているらしい


       「じゃ、監督」
       「くれぐれも頼んだぞ、
       「はい」


       席を立って、清田たちのところへ行こうとすると、
       視界に牧の姿が入った

       ちょうど自分と監督が座っていた前の席
       つまり先程清田が大声で叫んでいた席だ
       三人がけの、1番奥の窓際の席で窓枠に肘をついて景色を眺めていた


       「牧先輩もしませんか?ダウト」
       「ん?そうだな…遠慮しとく」
       「あら、そうですか」


       本当に先程まであの清田が居たのだろうか、と思うほど牧の空間は落ち着いていた
       これが帝王の貫禄といったところか

       は何となくそのまま行くのが名残惜しくて
       失礼します、と一言呟いて空いている牧の隣に腰掛けた


       「景色綺麗ですねー」
       「…そうだな」
       「富士山とか見えました?」
       「富士山は反対方向だぞ」
       「……あ、あはは」
       「くくっ、知らなかったのか?」


       絶対バカと思われた
       ずーんと落ち込んでいるの頭に大きな手がのせられる
       ぽんぽん、と頭を撫でられればまるでお父さんに誉めてもらったような気持ちになった


       「面白いやつだよ、お前は」
       「あ、ありがとうございます…」


       一瞬とは言え間近で牧の笑った顔を見てしまい、は慌てて目線をそらした
       他校から老け顔と散々言われている牧だが、
       年齢など差し引いて考えれば素敵な容姿に違いはない

       そんな牧の笑顔を間近で見てしまったのだ
       はどくどくと鳴り響く自身の心音に恥ずかしくなって、逃げるように信長たちのところへ向かった


       「さーん、また負けたー」
       「今のはお前が悪いんだろ」
       「神さんが強いんスよぉ!」
       「え?俺のせい?」


       本能のまま動く清田はに抱きついてくる
       そんな清田の頭をよしよし、と撫でてやっても席についた


       「宗ちゃん、あんまり信長くんいじめちゃだめだよ」
       「いじめてないよ、人聞き悪いなぁ」
       「本当かなぁ…宗ちゃん、根っからのドSだからなぁ」
       「ふふ、何言ってるの、

       ドス黒いオーラを放ち微笑む神は幼馴染みながら恐ろしいものを感じる
       は苦笑を浮かべながらカードゲームに取り組むのであった