「先輩、牧先輩…」
「か?」
深夜ということもあり、少し遠慮がちに戸の外から声をかける
思ったよりもすぐに反応を返してくれて、はひとまずほっとした
いくら怖くてもさすがに牧が寝ていれば遠慮しようと思ったのだ
「どうした、何かあったか?」
「えっと…」
何かあったかと訊かれれば確かにあった
だが怪談ものの話なぞを牧は本気にしてくれるだろうか、という一縷の不安がよぎって
はもじもじしながら言葉に詰まっていた
「とりあえず、入れ」
「はい…お邪魔します」
牧の部屋はさすが整っていた
部屋の大きさは自分のところとさほど変わらない
本を読んでいたのか、枕元に一冊転がっている
「茶でも飲むか?」
「あ、いえ!こんな夜分にお邪魔してるのに…」
「それは構わんが…どうしたんだ?」
笑わないでくださいね、と念を押して牧が頷いたのを見て
はさきほどあったことを一部始終話して聞かせた
「で、怖くて眠れん…と?」
「はい…すごく、すっごく怖いんです…!」
「まぁ落ち着け」
「はい…」
今にも泣き出しそうなを落ち着かせるように肩を優しく叩いてやり、
牧は思い悩むように顎に手をやった
「それじゃ、この部屋で一緒に寝るか?」
「い、いいんですか!?」
「今の状況を打破するにはそれしかないだろう。
待ってろ、今お前の布団を取ってきてやるから」
「ままま待ってください!一人にしないで下さいぃ…!」
がしっと腕にしがみつくに牧は困ったように溜息を零した
だがここで振り払って出て行っても、一緒に連れて行ってもあまり変わらないだろう
「なら俺の布団で寝ろ。俺はなんか…適当にやり過ごすから」
「だ、駄目ですよ!そんなの…」
「なら、俺と同じ布団で寝てもいいのか?」
「っ!///」
の反応が思った通りだったのか、牧は今度は苦笑を零した
牧とは違った意味で困った表情を見せるをじっと見つめる
しばらく沈黙の時間が続いて、
ふいに鳴りだした冷蔵庫の音にが小さく悲鳴を上げたとき、牧の口が開いた
「あれは冷蔵庫の音だ」
「…はい、ごめんなさい…」
「………仕方ないな。一緒の布団で寝るか」
「………はい」
「牧先輩?もう寝ましたか?」
「………寝てる」
「起きてるじゃないですか」
「どうした?トイレばかりは俺も付いて行ってやれんぞ、捕まるからな」
「ち、違いますよ!///」
くくっと牧の笑い声が響いたことにほっとして、
はずっと天井を見つめたままだった視線を右隣に移した
大きくて広い背中が牧が気遣って点けてくれた豆電球のおかげでうっすら見える
体を離していても所詮は同じ布団の中
じんわりと伝わってくる体温にさっきまでの恐怖心が和らいでいっていた
「私ってマネージャーとしてやっていけるのかな…」
「どういう意味だ?」
「だってこんな幽霊にもビビってる女ですよ。王者海南のマネが務まるかな…」
「心配するな。バスケの試合に幽霊は出ん」
「そ、そういうことじゃなくてですね…」
「もう…寝ろ。夜に考え事しても良い方向に進んだためしがないぞ、俺は」
「はい……」
そう言われても目を瞑ろうと思った矢先、
牧が寝返りを打って、顔が近くなった
お互い、まだぱっちりと目を開けていた
「」
「…はい///」
オレンジっぽい豆電球の光に心から感謝した瞬間であった
「成り行きでこうなったとはいえ、俺が男でお前が女であることは変わらん。
つまりどういう意味か…わかるな?」
「…迷惑ってことですよね、ごめんなさい…」
「そうじゃない」
ごそごそと布団の中が動いて、牧の力強い腕の力がの手首にはしった
ぎゅっと握られるその行為には本音をぶちまけた
「ちょっとは…期待してもいいんですか?」
視線がお互いに交じり合い、が瞬きをした瞬間、牧は自身の手のひらで顔を覆った
呆れられた
そう思ってはしゅんとうなだれる
その時、
「…当たり前だ」
確かに聞こえたその言葉にが俯いていた顔を上げると、
牧の顔が近づいてきて、思わず目を瞑ったとき、唇にゆっくりと牧のものが重なったのを感じた
微かにかかる牧の体重や、においにはしがみつくように牧の首に手を回した
ちろり、と牧の舌が出て、の唇を少し舐め、中に進入することはなく引っ込んだ
それが逆にいやらしく感じてはかっと顔を赤らめる
そんなにふっと牧の吐息がかかり、前髪が揺れた
「何とも思っていないやつと一緒に寝れるか」
低く掠れたような声で呟いて、牧は再び寝返りを打った
先程と同じ背中がの瞳に映る
だがそれはどことなく、照れというものを発していたような気がした
「おやすみなさい…」
「おう」
牧のその逞しい背中にこつん、と額を預けるとはようやく眠りについたのだった
あとがき
珂葉としては大本命でした(笑)
海南の帝王、スラムダンクの帝王大好きです。
しかもちょっと冗談も言わせられるので書きやすかった…!