ただのクラスメイト
彼から見て右斜め後ろの席で
授業中、背中を見つめるだけで
何百人もいる女の子の中でも1番後ろで
蚊の鳴くような声で黄色い声をあげて
跡部くんは私みたいな子がいることなんか、知らないだろうな
10月4日
跡部くんの誕生日
おめでとう、くらいは言いたいな
そう思って学校へ来たんだけ…ど…
思ってたよりも跡部くんの周りは凄かった
「跡部様―!」
「お誕生日おめでとうございます、跡部様!」
「景吾くんこれもらって!」
「きゃーっ!」
廊下にまで響いてる声、声、声…
とてもじゃないけど自分の席には座れない
彼の半径3mくらいまでの席の人たちは自分の席に座ることを諦めてた
「あとべくん…」
小さな小さな声で呟く
勿論、跡部くんには聞こえない
届けばいいのに
少し前まではそう思っていたのに
今では届いたあとが怖くて、
届かなくていい
と思っている自分がいる
やっぱり私は小さい
小さくて弱い
跡部くんへの想いが消えたら、ひゅんって風に飛ばされちゃうかもしれない
キーンコーンカーンコーン
とうとう終わっちゃった 言えずじまいで
今はもう部活が始まって、テニスコートの金網ごしに跡部くんを見るだけ
「帰ろかな」
今日はギャラリーもすごいし
自然と足取りが重く、トボトボと歩いた
人が凄いから裏道から行く
さすがにこんな道は誰もいなくて、私の視界からコートの金網が消えたときだった
ガシャン!と激しい音が背後から聞こえた
びくっとして振り向くと、
「うそ…」
跡部くんがいた
金網に手をついて、少し息をはずませて
恐いくらいに綺麗な蒼い瞳
心臓がギュっとなった
こんなに、きれいだったんだ…
「」
「は、はいっ!あ…あれ?何で名前…」
「…俺に何か言いたいことがあるんじゃねぇか?」
「ぁ…」
何が何だかわかんないけど、それはホントのこと
おめでとうって、それだけ言いたくて
ゆっくりと震えながら動く唇のせいで声も震えた
「………」
テニスボールの音と、女の子たちの声が遠くから聞こえる
死角になっていてよかった
「サンキュ」
「…ぇっ。あの?跡部くん…何で…」
「お前に。
お前に…言って欲しかった…」
「あとべ…くん」
「ずっと見てたのはお前だけじゃねーんだぜ?」
え…今…何て?
「部長―!跡部部長!」
「時間か…オイ」
「はっはいい!」
「プレゼントは、明日会う約束でいいぜ?」
「あの…」
「お前に拒否権はねぇ」
「はい…」
「くくっ。冗談だ…じゃあな、最高のバースデーだ」
そう言って行っちゃった
明日…明日になったらどうなってるんだろう
届けばいいのに
届かなくていい
とるに足りない
道端の雑草に小さなつぼみがついていた