長い長いロールスロイスが今朝も校門に止まる
          中から颯爽と降りてくるのは学園の王子様、跡部景吾だ

          きゃーきゃーと黄色い声が湧く様をは黙って見ていた


          おはよう、ぐらい声をかけようかな、と思って見ていると、跡部が微笑んだのだ
          自分ではない女子たちに

          いつもなら、さっさと無視してラブレターやらプレゼントやらを平気で突っ返し、
          のところへやってきて腰を抱き寄せて歩き出す


          さらに、いつもの口角を上げた意地悪な笑みはどこへやら、
          卒倒する女子もいるほどの爽やかさ

          めらめらと嫉妬心が込み上げてきて、は足早にその場を去った
          腕にかかえていた包みを乱暴に鞄に詰め込んで











       回してみました180°












          「っ、待てよ!侑士…!」
          「んなこと言うてる場合やないで、岳人!はよ、知らせな」
          「言ったってどうしようもねぇじゃんか、は」
          「せやかて、いずれは会うやろ?会うたときにショックが少ないほうがええやん」


          バタバタとお昼休みの廊下を走る忍足と向日
          彼等は知ってしまった…
          つい先ほど、跡部の異変を

          あまりもの衝撃に一分ほど固まってしまったほどだ



          「ここやな、ちゃんのクラス」
          「あれ、忍足さんに向日さん。どうしたんですか?」


          入り口から中を覗きこんでいると、鳳が出てきた
          どうやら本を読んでいたらしく、右手に文庫本を一冊持っていた


          「ちゃん知らんか?」
          「あぁ…ちゃんなら宍戸さんのところへ行くって…、何かあったんですか?」


          ぜーぜーと息切れを繰り返す向日を見て鳳は言った


          「丁度えぇ。鳳も知っとき。ええか?今日は跡部と話したらあかん」
          「は?」
          「先輩命令や。絶対にあかんで」
          「いえ、でも…」


          鳳の頭の中に跡部が頂点のピラミッドが出来上がった
          それを崩せと言われたようなものだが、到底出来そうにない


          「ほなな、詳しく説明すんのはちゃんが先や。その後話したるわ」
          「じゃ、俺達、のとこに行くからな」
          「ま、待ってください!俺も行きます!」


          返事など聞かずに走り出した先輩の後を慌てて追った

















          「なぁ。いい加減に機嫌直せって…」
          「嫌。」
          「ちゃんは跡部大好きだねー。羨ましいな、愛されてる跡部」
          「あんなやつ嫌いだもん」


          は朝の跡部が頭から離れず、お昼休みになった瞬間兄である宍戸のところへやってきた
          そして、怒りを露にしているのである。彼女なりに。
          ぴったりと兄の背にセミのようにくっつくのはが怒っている証拠
          そして、そうなったを元に戻すにはかなりの労力を必要とする


          「おったおった、ちゃん!」
          「お前。っじ、自分の教室にいろよな…っ」
          「ちゃん、跡部さんが…」
          「その名前は今猛烈に聞きたくない」


          ぴったりと両の手のひらを耳にあて、外界からの音をふさぐに滝がくすりと笑った
          だが忍足たちにとってはそういう場合ではなく、今やそれは鳳にとっても同じだった


          「忍足さん…早く教えて下さいよ…」


          少しずつ黄色い声の渦が近づいてくる
          それは、跡部がこちらにやってくるということで、
          忍足は強硬手段とばかりにの手を耳から引き剥がした


          「跡部が、変なんや!」
          「変…?いつもある意味変だよ」
          「いや、そうやなくてな…。なんていうか…なぁ、岳人」
          「あ、あぁ。豹変っつーか、そう!鳳みたいな…」


          ガラッと扉が開き、跡部が入ってきた
          は反射的に目を反らし、視線を中に彷徨わせた


          「やぁ、みんな!」










          ・・・・・・・・・・・・・・・・・





          「長太郎、今何か言ったか?」
          「いえ、俺は何も…」
          「跡部が…言ったみたいだね…」


          「、どうしたんだよ。僕の方見ないで」











          「変だぁ!」
          「やろ!?」
          「ああああ跡部じゃないっ!偽者…!」
          「何言ってるんだよ、僕は正真正銘の跡部景吾だよ」
          「やーめーてーっ!そんなの跡部じゃなーいっ!」
          「…」


          まるで捨てられた子犬のようにしゅんとしてしまった跡部
          それもかなり気持ち悪い


          「本当に長太郎みてぇだな…」
          「いえ、俺…さすがに僕とはいいませんよ」
          「見かけは跡部なのにな…」


          「ホントに…跡部?」


          恐る恐る、跡部を見上げる
          振り返ってくれたことが嬉しかったのか、跡部が爽やかな笑みを浮かべた


          「信じてくれるんだな、
          「う、うん?」


          半疑問系で答えるをお構いなしに抱きしめる跡部
          性格が変わった、と言っても跡部は跡部なのでの頬もほんのりと染まった


          「誰か一番事情がわかるやつに話を聞いたほうが…」
          「ってーと、樺地か?」
          「そういや、今日樺地おらんやん」
          「あ、俺さっき教室で見かけましたよ。隅の方ではぼーっとしてました」
          「隅の方でぼーっと…?」


          鳳の言葉にしばらく考え込み、忍足たちは様子を見に行くことにした
          俺も、俺も、とぞろぞろ出て行き、気付けばは跡部と二人にされていた


          「えっと…跡部?」
          「ん?」
          「(アーン?って言わない…!)ちょっと苦しいんだけど…」
          「もう少し…このままで」
          「えっと…///////」


          身じろぎすることも許されないほど強い男の力
          おまけに、こんなにも思いをぶつけてくるなんて
          いつも冷静で大人で、それが跡部


          「ねぇ跡部。昨日何があったの?」
          「別に…」
          「嘘。絶対何かあったんでしょ?頭打ったとか…」
          「…………」
          「打ったの?」
          「やっぱり、には解っちゃうか…」
          「いや、この場合誰にでも解ると思うんですけど」
          「僕も最初は半信半疑だったんだけど…」










          「頭打った!?」
          「ウス…」
          「それであんなんなったっていうのかよ…。
           それ、治んのか!?」
          「ウス」
          「悪ぃ…滝、通訳頼む」


          宍戸には樺地のウス語がいまいち理解できないらしい


          「跡部付きの立派なお医者さんによると、一時的なものらしいよ。
           そのかわり、普段の性格と180°変わってるらしいね」
          「…ホンマかいな」
          「くす…さぁね…」


          随分と余裕だな、と全員が思ったとき、
          ガタン、と椅子が倒れた

          倒したのは忍足、一時は平静状態に戻ったものの険しい表情をしている


          「ちょぉ待ち、樺地。
           自分、普段との性格が180°変わってまうって言うたよな?」
          「ウス」
          「もしそれがホンマやったとしたら…ちゃんが危ないで!」














          「あ、もうこんな時間…。跡部、そろそろ戻らないと、授業遅れちゃうよ」
          「…いいじゃないか、そんなの」
          「そんなのって…跡部、いつも言ってるでしょ?授業は受けろって」
          「…


          熱っぽい視線がの瞳をとらえた
          びくり、と肩を震わせて体を後退するものの、力強くつかまれている腕によって阻まれる


          「な…に?」
          「何逃げてるんだ?…僕が、怖い?」
          「……今日の跡部は変ってわかってるけど…。怖い、よ…」


          じわっと涙がの瞳を潤した
          霞んで見える恋人の姿は、男そのもので
          優しい笑顔の下に何を考えているのかわからない


          「今日は…手加減しない」
          「…手加減?」
          「いつも君といる僕は…僕であって僕じゃない。
           どこか強く抑制してる部分があって…いつも辛かった。
           でも、こうして抑えていた僕が出てきた以上は…それも今日までだ」
          「あ、跡部…ひゃっ!」



          机が激しく揺れた
          ひんやりとした木の感触がの背中に当たり、鳥肌が立った

          押し倒されている

          そう実感したときにはすでに跡部が自分に覆いかぶさり、視界を遮っているところだった


          「や、やだ跡部…っ」
          「ずっと…お前を抱きたかった…」


          柔らかい唇の感触がの首筋におりてくる
          しゅるっとのネクタイがゆるめられ、ブラウスのボタンも取られる

          今まで触れたくても触れられなかったところ
          激情をぶつければ、壊れてしまいそうなほどに小さく、儚くて
          ずっと抑えてきた


          「やぁっ…跡部…やだ…」
          「…?」
          「やだよぉ…」


          ぼろぼろとの瞳から涙かが零れ落ちる
          跡部が変わってしまったことに、行為が恐ろしいことに、
          それら全てのことに涙を零すしかなかった

          お願いだから、やめて…と呟くとの手首を掴んでいた手がゆっくりと外された


          「跡部…ずっと…私のために我慢してくれてたんだってこと…知ってたよ。
           だけど、勇気を出して跡部に全部あげるって中々言えなかった…」


          跡部が涙を拭ってくれる感触に身をゆだねながら、は続けた


          「今日…言おうと思ってたの。
           私…いつも跡部に何かしてもらってばっかりだから…
           今日…この、跡部の誕生日に…あたしの全部あげるって言おうと思ってた…。
           でも…こんな、跡部に…あげても…意味ないよ…っ」
          「…、僕じゃ…駄目、なのか?」


          は首を横に振った
          次いで、跡部の頭を優しく抱き寄せる


          「あたしは…跡部が全部好き。いつもの跡部も…もちろん、今の跡部もだよ。
           だから…駄目なんかじゃない」
          「…っ」
          「痛ぁっ!!」


          ごん、との頭が机にぶつかった
          再び押し倒されたと実感したとき、跡部の手がのふくらみに降りてくる


          「嫌だって…言ってんだろぉがぁ!!!」
          「ぐあっ!」


          の拳骨が跡部の頭にクリーンヒットしたと同時に、教室の扉が勢いよく開く
          慌ててそちらを見ると、忍足たちだった


          「あー…遅かったかー…」
          「遅くない!まだ未遂だから、未遂!」
          「…跡部の野郎…許さねぇ…」
          「お兄ちゃん!まだされてないから!」
          「…跡部、大丈夫なのかな?」


          滝の言葉にはっとして跡部を見ると、頭をおさえている


          「跡部っ!ご、ごめんね…?痛かった…よね?」
          「てめぇ…よくもまぁこんなに激しくやってくれたな、アーン?」
          「跡部…っ!も、戻ってる…!」
          「戻る?何の話だ…」


          跡部は、元に戻っていた
          先ほどまでの記憶を覚えていないことを除けば、いたって健康状態である
          良かった良かったと喜ぶ一同と複雑な跡部

          事件は、終着したのだ










          「はい、誕生日プレゼント」
          「あぁ。悪ぃな…」


          放課後、二人きりになっては鞄へ押し込んでいた包みを跡部に渡した
          もちろん、ぐしゃぐしゃの包装で、跡部はしばらく考えたが、大人しく受け取っておくことにした


          「中身クッキーなんだ。無事だといいな〜」
          「絶対無事じゃねぇだろ…」
          「うーん…粉々になってたらがんばって食べてね!」
          「………」


          悪びれなく笑うに、溜め息が漏れる
          何だか今日は一段と疲れた日だな、と思っていると肩に軽い重み
          デジャブか…と思いつつ、柔らかい髪を一房すくって口付けをひとつ落とす


          「
          「ん?」
          「さっき記憶がねぇといったが…実は少しだけ残っててな」
          「え?」


          不適な笑み
          久しぶりに見るその顔に頬が染まるが、今はそんな場合じゃない


          「…お前、俺に全部くれる…らしいな?」
          「…っ!!!」
          「もらおうじゃねぇか…お前の全部…」
          「なっ…何でそこだけ…!」
          「今日は、家に帰れると思うなよ…」





          は、跡部に美味しく頂かれましたとさ













          あとがき

          跡部誕生日おめでとうございます!!
          初の完全なる跡部キャラ崩壊に挑戦しました。
          思ったとおり…気持ち悪かった…。
          かなり前に友達と跡部キャラ崩壊ネタで盛り上がっていた時のやつを暖めていたのですが…。
          最近跡部をはじめとして、テニプリ書いてないので微妙〜な感じに(汗)

          残念ながら当日に上げることはできなかったのですが…。

          跡部、お誕生日おめでとう!!

          Happy Birthday To Keigo Atobe!!!