通いなれたなんて言ったらおかしいかもしれない
     三年間通ってきた学校ではあるけれど、授業なんてほぼ出てないし
     教室よりも屋上のほうが多く生息していた


     最初は一人だったけれど、今は必然的に二人
     くだらないこととか、ちょっと暗い話とか、何でも話せる悪友がいる



     夏場でも冷たい手とか、たまに大人ぶるところとか、有り得ないくらい側面が多いやつ





     彼は、私のことをごまめと呼ぶ















 01.君の笑う顔


















     「あけおめー、オール5の仁王雅治くん」
     「・・・ごまめか」
     「ごまめ言うな!」





     校庭に整列して並ぶ生徒たちを下に見ながら私は屋上にいた
     既にそこに先客がいることも何となく解っていた
     サボるタイミングはいつでもそいつと同じだったし、
     彼これ一緒にサボるようになって一年の付き合いにもなる間柄だったから


     「ごまめはごまめじゃろ。いっこも身長伸びちょらんお前じゃ、良い愛称じゃなか?」
     「・・・別に良いけど。小さいのは前からだし」
     「新年早々、やさぐれた目しとるのう」
     「誰のせいよ」





     うらめしそうにじっと見つめると仁王と目が合った
     そう、この笑い方
     目で笑って、口元をほんの少し緩める





     「何見とれとる。お前は、大好きな先輩でも見ときんしゃい」
     「おーっ!今日はベストポイントー!」
     「静かにしんしゃい。お前さんのデカい声校庭に聞こえたらどうする」
     「だーいじょぶだって」





     ぎし、と何ともまぁ古臭い音が響いた
     よりかかったフェンスから発せられたものだが、明治11年から成るこの校舎を思えば仕方ない
     張り巡らされた網目からお目当ての先輩を見る
     もう1年も続くこの片思いのせいか、先輩の動き一つ一つまで目で追った





     「そげに見てよう飽きんな。大した色男でもなし」
     「まぁ、しっつれいね!あんなに凛々しいでしょうが」
     「そうか?正直、俺のほうがマシじゃ」
     「あーそうですか」
     「流すな」





     中途半端な体勢に疲れて、仁王に向かい合う形で座りなおした
     左足をたてた状態で座っていた仁王は立ち上がり、私の隣に座る
     息遣いが聞こえてきそうなこの距離感
     仁王のファンが見たら私なんて八つ裂きにされそうだ





     「あげな男のどこがええもんかねぇ。言うてみんしゃい」
     「顔、かな」
     「ほう・・・。顔、ねえ」
     「人には好みってもんがあるでしょ。人の趣味にとやかく言うんでない」
     「旦那にはしたくない顔やぞ?
      旦那にするんは、毎日顔をつきあわせても大丈夫かが基準になるけぇの」





     確かに、あの顔は毎日見て格好いいと言う程のもんじゃないかもしれない
     先輩に惚れた理由もよくよく考えれば人目惚れみたいなもんだし
     バスケする姿が格好良かったから





     「うっさいなー。そんなこと言ってる仁王にはお嫁さん絶対出来なさそうだよね」
     「高望みせんかったら嫁なんていくらでも出来るじゃろ。
      素直で要領よくて料理が上手ければ誰でも良か」
     「ブスでも?」
     「ブスの度合いにもよる」
     「そんなもん?」
     「そんなもんじゃ」





     ふーん、と零してゆっくりと瞬きをした
     少し強い風が吹いて仁王の髪を揺らしていく
     銀色のしっぽが風に揺れている様を目で追っていると、一枚の絵を見ているような気がした






     ノイズのない世界
     それは、私と仁王だけが作れる世界
     外界で聞こえる拡声器のキーンって音とか、生徒のざわめき声とか
     空を飛ぶ飛行機も、癖のある校長の声も、
     全部、聞こえない



     響くのは、ゆっくりとした自分の鼓動と
     風の音と、鳥の声





     色のある世界
     外界で感じる冷たい音とか、冷たい声とか、
     しらじらしい声とも、嘘くさい音も
     全部感じない



     感じるのは、コンクリートの冷たさと
     風の冷たさと、広がる波紋










     「ね、仁王はお嫁さんに何を望む?
      ある程度、美人じゃなくてもいいんでしょ?
      他にはない訳?例えば料理の腕とかさ」
     「いくつまで望みは言えるんじゃ?」
     「…うーん、3つくらい?」
     「ある程度なら美人じゃなくてもいい
      料理はまぁまぁ出来れば良い
      素直な性格な嫁さん」
     「スッキリまとめたよこの人…」
     「自分はどうなんじゃ?」





     心なしか、仁王の目が輝いてる気がする
     砂漠の中で唯一見つけたいじめられる悪友、みたいな





     「優しくて、格好良くて、頭の良い旦那さん」
     「…ほう?優しくて、格好良くて、頭の良い旦那さんならええんじゃな?
      もしその旦那さんが浮気とかしまくって、女三人はべらせとってもええ訳じゃな」
     「そ、それは嫌だなぁ…。じゃ、浮気しない旦那さん!」
     「条件は3つまでじゃ」
     「………優しくて、格好良くて、浮気しない旦那さん?」
     「頭が悪くてもええんじゃな?何回も言ったことを繰り返し間違えて…」
     「もーっ!ちゃちゃをいれないで」






     ふっと息だけで笑った
     あぁ、そういえばこんな笑い方もするんだこの人は
     満足そうな笑い
     目を細めてこっちを見る





     「本気の恋をしたら、相手の欠点も見えなくなるのかな」
     「そう思うんか?」
     「相手のこと全部ひっくるめて好きになったら、欠点も愛しいと思えるんじゃないの?」
     「…一理あるかもな」
     「あんまり考える気ないでしょ」
     「あぁ」
     「…じゃあへたに相槌うたないでよ」
     「なら、さんの本気の恋とやらを語ってもらうおうか」
     「はーっ!?何で…」
     「興味があるからじゃ」
     「…絶対無いでしょ」
     「いいや、あるぜよ」
     「…その笑顔が嘘くせぇ」





     やる気なく、仁王の拍手が響いた
     ここでノらない訳にはいかず、すくと立ち上がって咳払いを一つ
     わざとらしくやってみる





     「本気の恋っていうのはですねー
      その人がいるだけで、全部が違って見えること…かな。
      1人でいるときはモノトーンなのに、2人でいるときはフルカラーみたいな!」
     「ハイ、今日のゲストはバカ田大学出身のさんでしたー…」
     「待った待ったぁ!まだ続きがあんの!」





     拍手しようとした仁王の腕を掴む
     夏場に焼けたその腕は、冬を通ったからか色合いが戻ってきていた
















     「仁王は、本気の恋したことないの…?」















     彼の噂は、今に始まったことじゃない
     放課後の男子のおしゃべりタイムを偶然聞いたときに得た情報












     仁王は、女をとっかえひっかえしてる
     あいつは心から女を見てない
     本心なんて、誰にも見せない











     モテない男子のヒガミかって思って通り過ぎた
     けれど、彼の瞳には出会った一年前から今でも何も映っていない
     上っ面で、心の奥から溢れ出るものはない
     むしろ馴れ合うことを拒んでる



     ここからは来るな、と
     俺の世界に入ってくるな、と















     「教えてくれるんか?ごまめが」
     「何を?」
     「本気の恋。もちろんその身で」
     「ばっか!一生ほざいてろ」











     笑い声が、あがる










     仁王は笑わないんだね










     ずっと、そうやって生きていくつもり…?













     既に私の前に引かれた彼との一線に私はおびえてる





















アトガキ
    不思議な仁王さんを書こうとしたら作品全体までもが不思議系に…!
     おまけに文の編集の仕方もクールというかシンプルにしたせいでさらにすごいことに…。
     意味深な文が多いのと、仁王さんが方言危ういのはごめんなさい。
     なるべくいっぱい伏線をひっぱろうと思いましたがあまり引けませんでした。
     そしてなるたけ短文にしようと思ったのに考えてた当初の二倍近くになってしまったぁ…