においだけじゃなくて、雰囲気まで甘ったるい
     でもまぁ、日本じゃあ全国の乙女たちがこの日に賭けてるようなもんらしい
     なら、この際チョコなんて甘ったるい食べ物は抜きにして同じオトメも生まれたことだし、
     許してやろうじゃないか









 02.君の怒る顔















     冒頭では、タテマエ上の本音を零しましたが、改めて申し上げます
     街を歩けば聞こえてくるお菓子会社の陰謀の声
     あれに私、もノッてしまいました
     もちろん、想いを寄せるようになってから一年にもなる愛しの先輩の為です
     普段は吐き気をもよおすほど甘いもの嫌いな私めが、
     売り場で一番高いチョコを選んで買って参りました
     会計のときレジのお姉さんより私の逃げ腰っぷりに訝しげな視線をくらいましたが、
     この際そんなの無視っス





     「で、まだ渡しちょらんのか」
     「そうなのぉ〜、ねぇ、仁王くんどうしたらいーい?」
     「…いい加減にさっきの子の真似止めんしゃい」
     「この日に仁王と一緒にいるとあらゆる女の引き出しが見られて面白いなぁ…」




     私の声なんか耳に入らないみたいだ
     吹いてきた心地よいに風だけ心を許す
     息を吐いて、足を伸ばすと仁王への想いの山へ当たってしまい、見事なピラミッドが崩れた


     「あ、ごめん。潰した」
     「別に構わんよ。俺のもんじゃなか」
     「…………あのぉ、まさかとは思いますが、コレらは置いてけぼーりすっぽんぽんにならないよね?」
     「これを家に持って帰って食えば俺のもんかも知れんが、何やら面倒くさいしのう…」




     むこうが勝手に置いて行っただけじゃ、と
     寄せられた想いを見もしない
     どこまで、冷たいやつなんだろうか






     「あ、雅治くん見―っけた!」
     「……お前か」




     突然の展開と登場に手から箱が落ちて音をたてた
     私が座っているこの場所は、貯水タンクの影になっているから、入り口付近にいる人には見えないが、
     今の音で確実に気づかれただろう




     「雅治くん…、そこに誰かいるの?」




     一番言わそうで、そして言われたくなかったセリフ
     ゆっくりと仁王の視線がこちらに向けられ、目が合った
     反射的に首を横に振った






     冗談じゃない、修羅場はごめんだ




     そんな私の気持ちを悟ったのか、仁王の笑みがこちらに向けられる




     「…おるよ」






     こいつ、マジで殺す





     仁王への殺意が芽生えた







     「その子……、いつも一緒にいるのね」
     「俺の女じゃけぇ、当たり前じゃ」
     「はっ…!?何ほざいて…」
     「…いつから、付き合ってたの」
     「さぁのう…、覚えちょらん」




     全く介入させてもらえない雰囲気
     いや、出来れば介入したくないけど


     ただ、ありもしない出来事を自慢げに話すヤツの目が気に食わなかった





     「私を……私の気持ち知っててそういうことしたの?」
     「…知らんぜよ。お前が勝手に勘違いして舞い上がっただけじゃ」
     「…ひどいっ…」




     女の子の瞳から涙が落ちた
     古い屋上の床に落ちて、シミをつくっていく




     「その子はどうして特別なの!?普通の子じゃない!…だって、わ…」
     「お前のそういう自意識過剰なところがうっとうしい」
     「…っ」
     「言葉にはせんでも、自分のほうが優位だって目で言っちょる。
      自分でも、気づいてないじゃろ?」




     全く関係のない私までもが震えた
     仁王の冷たい声に
     仁王の冷たい瞳に


     この人は、誰だろう


     私の知ってる仁王じゃない


     私の見てた仁王じゃない







     仁王じゃない








     「仁王…?」




     不安になって、自然と声が漏れていた





     小さな私の呼びかけに、彼は気づいた
     にや、といつもの笑みを私に向け、私を安心させたのも束の間




     「…っ!?…ん」
     「…っ!」
     「これでええんか?見たかったんじゃろ?自分がフられたところを
      この通り、俺には女がおる。それが嫌なら、自分で絶ちんしゃい」
     「そうさせて貰うわ」




     ぎっと強烈な睨みを利かせて、去っていった




     再び、流れ出す時間
     何事もなかったかのように仁王は平然としている





     さっきは何が起こったかわからなかった




     ただ、感じたのは彼の冷たい腕とは正反対の暖かくて柔らかいもの
     それが唇に触れた




     「…な、なにすんのよっ!!」
     「…随分インプットに時間かかっちょったな。データが重いんか?」
     「ふざけないで!私の…私のファーストキス奪っといて…!」




     がっと胸倉を掴んで、睨み倒す
     この状況ではさっきの女よりも自分の方が睨み具合はすごいように思えた



     仁王は、少しふてくされたような顔をして、すぐにまた余裕の笑みに戻った




     「…初めてのキスは甘くて優しいもんだと思っとったんか?
      期待に添えられんで悪いのう」




     力の限り、頬を叩いたつもりだった
     だが、仁王は軽く頬を手で抑えただけで、何も言わなかった




     「仁王がそんなやつだと思わなかった…
      金輪際、私に近寄らないで!」




     手に持っていた包みを仁王に向かって投げつけると、
     屋上を後にした




     毎日屋上に通うという私の日課は、消えた




















アトガキ
     仁王さんがどんどん訳わかんなくなってきました…
     伏線引きすぎたのか、不思議仁王が成功したのか、訳わかんないです(笑)
     次のお話から、立海陣出張りますv