どうしてこんなことになったのか
     頭の中が真っ白で何も考えられやしない
     目の前にいる人は本当に自分が想いを馳せていた人なのか
     本当に大好きな先輩なのだろうか



     もう、何にもわからなくなった




     目の前がモノクロで



     何処へ行こう



     何処へでも行ける 足があるんだから
     でも、通いなれたあの屋上へは行く気にならなかった



     思い出せば仁王にひどい言葉ばかりぶつけたのに、今は自分が傷つけられたことばかり考えてしまう



     雑草とジメジメとした湿り気に帯びた裏庭で、静かに涙を零した











 03.君の泣く顔












     「仁王っ、どうしたんだよお前…」
     「いや、別に…」



     練習に向かう途中、立ち話している男子の群れに目がいった



     ごまめが、好きな男か…



     改めてよく見てみるとそれなりに良い顔かもしれない
     ぼんやりそう考えていると隣にいた丸井が声をかけていた



     「…行くぜよ」
     「お前が急に立ち止まったんだろぃ…」



     立ち去ろうと歩み始めたとき、仁王は再び止まらなければいけなかった



     「こいつひでぇんだぜ。この間、二年の女の子が告って来たときにさ、
      お前みたいにチビでブスなやつは好みじゃねえって言ってフったんだ」
     「マジかよ」
     「いや、マジでそうだったんだって。お前も見てみりゃわかる」
     「あの子もあの子だよな、泣きもしなけりゃ何にも言わねぇで行っちゃってさ」
     「そりゃそうだろ。何て名前だっけ?」
     「あー…あれだろ、?」




     バンッ!!



     「おわっ!何だよ、仁王!」
     「…………」



     校舎の壁を殴るしか出来なかった
     この怒りをぶつける場所が他になかったから




     「ブン太、俺は部活休む。真田にそう伝えんしゃい」
     「…だ、ダメに決まってんだろぃ!真田の性格お前も知ってっだろ?」
     「悪い」
     「待てって!おい、仁王っ!」



     最初は歩いていたつもりだった
     でも、少しずつ速くなって、気がつけば小走りで階段を駆け上がっていた



     錆びたドアノブを掴んで回せば光が漏れる
     開け放ったドアの向こう側
     …誰もいなかった




     「…おらん、か。それも、そうじゃな…」




     彼女は、この間この世界から出て行ったばかり
     冗談のつもりだったのに
     怒って、もう二度と自分に近づかないと言って、この世界から出て行った



     彼女がいなければこの世界は作れないことを知っていたのに
     黙って見送った
     手を伸ばせば、届いたかもしれないのに



     気づいていなかった



     彼女がいなくなれば自分自身までもが潰れることを








     『仁王は、本当の恋したことないの?』






     傍にいてやらなければいけなかったのに
     ひたむきに、ただ1人の男に想いを寄せる彼女の傍に

     他人をこんなにも想ったことがあっただろうか
     女に対してこんなに責任や心配を重ねたことがあっただろうか






     「来ちゃった…」
     「…ごまめ」




     振り向けば、彼女の泣く顔
     静かに、零れていく涙
     水道の蛇口から漏れて出来た水溜りにもその顔が反射されている



     「玉砕しちゃった…へへ。仁王…におっ」
     「…黙っときんしゃい」



     その場に力なく座り込んだのをどうすることも出来なくて
     泣いている女をどうにかする方法なんて頭の中のマニュアルにいくらでもあったのに、
     彼女には何もしてやれなかった



     ただ黙って、傍にいることしか、出来ない




     静かな屋上に、カギの締錠音が響いた



















     「小さい頃、近所の友達と一緒によう遊んどった。
      それこそ、物心つくまで女も男も一緒じゃ。
      毎日、遊びまわって…」
     「…そのころは、仁王も素直だったんだ?」
     「ふっ…そうじゃな」
     「へぇ〜、可愛かっただろうな、雅治くん」
     「それなりにな」
     「あ、否定しないんだ。ね、仁王の初恋っていつ?」
     「さぁな…、もう覚えちょらん」
     「そんなに昔のことなの?もしかして、幼稚園の頃とか?」
     「ぼんやりは覚えちょるよ。…ただ、お前さんには秘密じゃ」



     背中越しに仁王が笑っている感覚がわかった
     振り向こうとすれば強い力で手をおさえられて、男を感じた



     「ねー仁王。また、恋できるかな…?」
     「…さぁな」
     「さぁなって…相変わらず適当…」
     「それは、お前が決めることじゃ」
     「そうだね…。私、次に恋する相手は仁王みたいなやつがいいな」



     少しだけ、力が強くなったのは気のせいなのか
     それとも、本当に仁王が反応を示したからなのか
     それは、わからなかった



     「やっぱりお前は、男見る目がなか…」



     いつもみたいに小さく笑う仁王だったけれど、
     何故か、その言葉に切なさを感じた






















     ねぇ









     今、この一時だけは








     黙って傍にいてくれるあなたに








     甘えていてもいいですか…?

























アトガキ
     前回のアトガキでもお知らせしたとおり、立海陣の出番です。
     まぁ、出番といってもブン太くんのみですが(笑)
     そして次回も立海陣はお休みして、次々回で大活躍。
     だんだん、この場が立海陣の出番予告場所になってきましたが…。
     次からは甘く、そしてギャグで突き進み、甘く終われればいいなぁと思っちょります。