夢を見た

     太陽みたいに笑う顔

     女ということも忘れて大胆な座り方をするところ

     男っぽい乾いた性格

     女らしいしなやかな腕


     「いつから、だったか・・・」


     泣き顔を見たからだろうか

     それとも、あまりにも綺麗な泣き方をしていたからか


     鳴り始めた携帯のアラームを止めて、起き上がった










 05.君の赤い顔










     「おはよ、仁王。早いね」
     「おう」


     朝の登校時間
     が屋上へ行くとすでに仁王がいた
     よく晴れた空を見上げ、いつになく上機嫌な様子だった


     「あー、私ってば何であんな男好きだったんだろ。
      こうして見ると、全然かっこよくないね」
     「そうじゃろ」


     立ち上がるとバレそうなので、しゃがんだまま柵の間から運動場を見下ろす
     そこには過去に片思いをしていた男の登校する姿があった
     前までかっこいいと思っていた仕草さえも今では吐き気がする


     「ん〜・・・やっぱ、かっこいい人なんてそうそういないよね。
      男子テニス部はみんな結構かっこいいけど」
     「そうじゃろ」
     「その発言は微妙にムカつく」


     振り返るとのんびりと寝転がったまま仁王が笑っていた
     しばらく見つめていると、ふいに吹いてきた風が仁王の前髪を揺らして、綺麗な目と合った


     「ごまめ」
     「何?」


     ちょいちょい、と手招きをされて素直に近寄ると強い力で引き寄せられた
     驚くしか出来なくて、何も言えないを尻目に、仁王はを組み敷く


     「な・・・に?」
     「お前、言うとったな。本当の恋を知らんのかって」
     「そんな古い話・・・」
     「俺は、お前と会って興味が出てきた。お前が言う本当の恋に」
     「それが?」


     あくまで目をそらしていると、仁王の指が頬に触れた
     そしてこちらを見るように固定していく


     「ごまめ、やから言うて油断しとったらいかんぜよ。
      いくら特別ルールでも理性では抑えきられん」
     「な、なによ。それ何のことかわかんな・・・っ」


     二回目の、キス
     好きな人以外とは絶対にしないと決めてた

     例えば事故チューであったりだとか、望んでもいない相手とのキスだったりとか、
     そんなの、この拳でどつきまわしてやると決めてた

     そして、一回目のファーストキスの時にはそうした

     なのに、

     どうして、動けないの?

     組み敷かれているから?

     力が強いから?

     仁王を傷つけたくないから?


     好きだから?


     「お前は、俺のごまめじゃ。よう覚えときんしゃい」


     ふっと上からかかっていた重圧がなくなって、仁王が離れたんだとわかった
     途端に、私の体は正直になってくる
     真っ赤に染まっているであろう自分が耐えられなくって、
     慌てて屋上を飛び出した


















     「お、あんた仁王の・・・」
     「え?あ、丸井くん」


     階段を降りていると、仁王と同じテニス部の丸井ブン太と鉢合わせた
     今までクラスも違うし、話したことなどなかったが、何しろ彼は人気者集団のうちの一人
     はモチロン知っていた


     「仁王知らねぇ?」


     ぷうっと緑の風船が出来上がる
     その頭に風船ガムいくつ校則を破る気なんだろう、と思った


     「何で私に聞くわけ?」
     「だって、お前。仁王の彼女だろぃ?」
     「違うし!勝手に決めないで」
     「何だよ、知らねぇのかよ〜・・・」


     んー・・・と不機嫌そうな声が漏れる
     そんな声出されても教えたくない

     というか、今は仁王に関することに関わりたくなかった
     封じ込めていた何かが溢れ出してきそうで


     「あ、お前でもいいや。ちょっと来いよ」
     「は?どこに」
     「部室まで。ほら、早くしろって。こっちは急いでんだよ」
     「ちょっ・・・」


     強引に腕を引っ張られて、連れて行かれた




















     「そういうことならそうと、もっと早く言ってよね」
     「あれ、言ってなかったけ?」
     「ブン太、それはいけないな。事情を説明しないで連れて来るなんて」
     「、次はお前の番だぞ」
     「…はいはい」


     カチカチとルーレットが回って、止まった
     コマを動かして、指示に従う

     そう、人生ゲームにつき合わされていた
     珍しく朝練を休みにして人生ゲームをしようということになり、
     仁王を呼びにいった丸井が人数合わせに連れてきた
     そういう図式だった







     「それで、仁王とはどういう関係なのかな?」


     ぽつり、としかし確実に幸村が言った
     その言葉に反応したのは私ではなく、部のみんなもで、
     真田など自分のターンであることも忘れて腕組みをして何かを考えているふりなどをし始めた



     「どうって…友達」
     「そうかな?」
     「何が言いたいの?」
     「解ってると思うけど?」


     どこからが本気で
     どこからが冗談の微笑みなのかわからない

     ある意味、真田よりも恐ろしいと言われている理由はこれなのだろうか


     「仁王は…気づいてると思うけど?自分のことに。
      君は…まだ蓋を閉じてるつもり?」
     「…放っといてよ」
     「そういう訳にもいかないな。
      仁王は俺たちの大事な仲間だし。
      それにね、君と過ごす時間が多くなってから彼は随分根が真面目になった
      そんな劇的大改造をした人なんだから、会ってみたいし、知りたいとも思う
      それが普通じゃないのかな?」

     「仁王が…?」
     「君は勿論知らないだろうけれど、以前の彼はすごかった
      つかみどころがない、なんて枠には収まりきらない
      何もかもが同じような視線でいた
      ところがだ、君の話をするようになって、
      君と同じ時間を共有するようになって、人間味が増してきた」
     「だって仁王はただの友達…」
     「その君が言う“ただの友達”さえも仁王は存在を認めなかった」


     にこ、と真田に視線を送る幸村にようやく気づいたのか、
     真田がルーレットを回した

     カチカチ、と刻む音が今まで埃が被っていた箱を解き放つカギの音のような気がする

     「寂しかったんだろうね
      でも、その寂しいさえ知らなかった
      ところが、君と会うようになって、自分と同種の人間がいることを知って、
      いろいろと知ったんだと思うよ。
      そんな人に心を奪われるのも俺でも何となく解る」




     「私は…仁王、好き…だよ」




     テニス部のみんなの視線がこちらに突き刺さっている
     息をするのでさえ苦しかった


     「それ、悪い?仁王が例え私のこと好きで、私も仁王のこと好きで、
      でもお互い認め合ってない関係
      それ悪いの?突然現れて、そんな事言って、何が言いたいの!?」
     「別に…。ただ俺たちは、君の応援をしようと思って」
     「……は?」


     せっかくバシっと決めたつもりだったのに、それを一気に切られたような感じだった
     得意げに微笑む幸村に続き、他のみんなも動き出す


     「俺たちは今の仁王がいいんだよ。
      前のアイツは何だかんだいって友達だったけど、どうにもわかんねぇやつだったし」
     「そうだな…。だから、アンタにはアイツの隣にいて欲しい」
     「そこでだ…君から仁王に告白してもらうじゃないか。
      もちろん、方法は提供するし、応援もするよ」




     冗談じゃない、と立ち上がろうとしたときにはもう遅かった

     黒オーラを放つ幸村によって腕を掴まれていた



     仁王、ほんとに尊敬するよ

     こんな魔王がいるテニス部に居れて…










     アトガキ
            もう終わります。ってか終わらせます。
            前回のあとがきで折り返し地点と書きましたがべつに折り返しじゃねェと今さら気づきました
            あと1、2話くらいで終わっちゃいます。つか、ミニ連載なんだからホントは五話くらいで終わりたかった…