夢を見た
          きっとこの桜のせいだろう

          世話係が出来たからだろうか
          今年の桜は去年のものよりもずっと美しい
          あの日のように





       吹きやまない優しい風





          「近藤さんかたぐるま!」
          「まったく総悟は…さっきまでに侍になるんだ!とか宣言してなかったか?
           甘えん坊な侍様だな…」
          「ま、まだ侍じゃないからいいんでィ!」
          「ははは!よし、いくぞー」
          「わぁ…っ!」


          もう何年前のことだろうか
          俺が近藤さんのところにいるようになって最初に訪れた春の日のことである

          近藤さんの誘いで俺は花見に来ていた
          今年で十になる総悟と八つになるも一緒に来ている


          「…?」


          振り返れば、がいた
          近藤
          何を隠そう、近藤勲の妹である

          先ほどまで総悟と楽しそうに走り回っていたのにうかない顔でしょんぼりしていた


          「どうした?」


          声をかけてやれば脅えたように肩をすくめた
          この少女はまだ俺を恐れている

          無理もない
          数ヶ月前まではまるで狂犬のような生活を送っていたのだから


          話したくないのか
          そう悟っての視線を追うように振り替えれば、総悟を肩車した近藤さんがいた


          「アレ?ちょ…なんか鼻引っ張ってね?
           イダダダダ!ちょ、痛いって総悟!鼻フックやめなさい!イダダダ!!」
          「あはは!」
          「ちょ、何この子ォォォ!!」


          「そうごくん、ずるい…」


          ぽつん、と呟いたのを俺は聞き逃さなかった
          あぁ…そうか

          ゆっくりとに近づく
          ぴく、と反応を示しつつも逃げなかったことに感謝して、持っていた竹刀をに渡した


          「ひゃっ…!」
          「ほら…」


          思っていたよりも軽い
          抱き上げれば突然高いところに上がったのが怖かったのかぎゅうっとしがみついてきた


          「わ…ぁ…ちかい…」
          「あ?」
          「さくら、ちかいです…」


          は竹刀を大事そうに握り締めながら頭上の桜を見つめていた
          思えば、の声を間近で聞いたのはこのときだったような気がする


          「土方さん…ありがとう…」


          ありがとう
          その一言がなんだかとても懐かしく感じたのを覚えている


          「あぁ…」


          そう返すだけで精一杯だった俺
          間違いなく、柄にもないがの声が俺の中に確実に足跡を残していった

          その足跡が、今の俺の思いに繋がっているのかもしれない





          「土方さん!何見てるんですか?」
          「…桜だ」
          「…すごく綺麗ですよね!頑張ってお世話した甲斐あったなぁ…」
          「……そうだな」
          「綺麗に咲いてくれてありがとう、桜さん」


          ざわ、と風に吹かれて桜が揺れた
          きっとやつも喜んでいるに違いない

          俺と同じ境遇か