とある二人の朝の風景










「ほら、起きな」



朝、日の出ともに背中に鈍痛のはしったはあわてて飛び起きた。
警戒の色を強めた眸を瞬きさせて、周りの様子を伺う。
その一連の動作に、真後ろに立っていた佐助は呆れたようなため息を一つ。



「ちょっと、昨日『明日は私が朝ごはん、作ってあげる!』なーんて言っていたのは誰だ?」
「はい?――って、佐助…曲者は?」



急にかけられた声には振り向き、彼がとても良い顔で笑いながら言った言葉にきょとんとする。
それを見て、佐助は二つめのため息をこぼした。



「なに言ってんの、この俺様のいる部屋に潜める忍びなんて、居るわけないでしょうが」
「……ってことは…佐助ェ!!」



また蹴ったわね!とは怒鳴るが、予想済みだといわんばかりに耳に人差し指を入れてそれを防いだ佐助は、
怒りに激しく肩を上下させている彼女を見て、怒鳴り声が収まるとそっと耳栓を外した。



「はいはい、ご苦労さんっと…」
「〜〜〜っかー!ムカツク!!」



悔しげな声をあげて、ふとんに二度三度、拳を打ち付ける。
みしっ、と床がきしむ音がした気がした。
暫くして彼女の怒りがある程度収まったあたりに、佐助はなだめるように肩をポンポン、と叩いてやった。



「ほらほら、落ち着けって」
「誰のせいだと…!!」

「失礼いたします」



はグッと拳を握り締めて、佐助を一度でも良いから殴ってやりたいと、それを振りかぶってみたものの、
いとも簡単に手のひらで受けられ、ギリッと歯を噛み締めたとき、外からよくとおる女の声が聞こえた。
突然聞こえてきた第三者の声に、二人の動きがピタリと止まる。
訪れた静寂をやぶったのは、勢いよくあけられた襖の音。
廊下に正座していたのは、先ほどの声の主―――と仲の良いくのいち、お菊だった。



「お二方、お館さまから呼ばれていること。お忘れではございませんね?」
「え、お館…さまが?」
「はい。…様、昨日何を聞いていらっしゃったのですか?」

「昨日……」



そう呟いて、は顎に手をやった。
昨日の夕から今日にかけての記憶が、すっかり抜け落ちてしまっているのである。嫌な汗が流れた。
忍として、昨晩のことを忘れてしまうのは痛手である…むしろ、あってはならないことだ。
一瞬、自分の忍としての道を考え直しかけたに、あ、という佐助の間の抜けた声が聞こえた。



「あっちゃー……ごめん お菊、俺のせいだわ、それ」
「は?」 「え?」

「昨晩、だろ? 確か、俺はそのとき、翌日任務ってことでいつもどおり任務前の酒を飲んでいたらが来て――。
それでに酒を飲ませまくって、泥酔させたときに、にも別任務の言伝が来て……。
んで、続けて飲んでいたら、やけに甘えた瞳で誘ってくるから―――、」

「ちょ、ちょっと待ったぁ!!」



続きも言おうとした佐助の口を、顔を真っ赤にさせたが飛び込む勢いで、両の手のひらでふさいだ。
淡々と語る佐助のおかげで、今やっと思い出したのである。
しかし、正直思い出したくなかったかと聞かれれば、迷うことなく首を縦に振ったであろう。

お菊の方へチラリと視線を向ければ、おかしそうに口元に手をやって、クスクスと笑っていた。
なおさら、の頬が赤く染まる。



「お、お菊ッ!!」
「ふふ…申し訳ございません。 では、日が昇りきるまでには、お館さまのところへ行ってくださいまし、お二方」



最後まで笑みを絶やす事のなかったお菊が、音もなく閉めた襖を、はジーッと見つめていた。
しかし、伸ばしていた腕がからめとられて、ハッと我を取り戻して佐助の方へ振り向いたときには、
ニコニコと笑う佐助に、身動き一つとられないよう両腕を掴まれていた。



「はー…死ぬかと思ったよ、俺。まさか、力の限りをつくして口をふさぐなんて、ね」
「え、あー…ごめん。…赤くなった?」



そう言って、まじまじと彼の口元を見てみれば、他と比べて赤くなっているようにも見える。
それに少し顔をゆがませたに、佐助はニヤリと笑った。



「あ、痛〜…、切れてるかも」
「え、うそ」

「嘘じゃないって、ほら ここ」



そう言って指差した箇所に目をやると、そこは唇の端で、とても赤々とした血がにじんでいた。



「最近、寒くて乾燥してきてるからなぁ」
「ご、ごめん」
「あー痛。忍でも痛いもんは痛いねー」
「だッ…!だから、ごめんって言っているでしょ!?」



わざとらしく、痛さを強調する佐助に、は最初こそ下手に出たものの、結局は声を荒げる事となった。
その表情は色々な感情にまみれていたが、その中に「罪悪感」というものがあるのを、佐助は一目で見抜いていた。
それも、愛あってこそのことである。
かすかに寄せられた眉根、わずかに逸らしている視線。
それを見ただけで、手に取るようにして分かった。
佐助は、自分以上に彼女を知り、そして愛す人間はいないだろうと思った。
なりの愛情表現、照れ隠しの際に見せる表情、にじみ出ている優しさ、自分にだけみせる、可愛い顔。
何もかもが、佐助には愛しく思えた。



「…じゃ、悪いと思っているならさ。消毒してよ、のここで」



顎に手をかけて、親指の腹を、ふっくらとした彼女の下唇に這わせると、はびくりと肩をはねさせた。
困ったように佐助を見上げるの眸に、身体がやけるように熱くなった。
片腕が解放されたことで、反射的に逃げようとした腰に、もう一方の腕を巻きつける。



「……えーっと、佐助さん?何しているんですか、アンタ」
「だって、こうしておかないと、逃げるだろ?」



逃げたくもなる! 目の前で悪びれもせず笑っている男に、はそう叫んでやりたくなった。



「んの…っ!」
「良いでしょ、また暫くは会えなくなるわけだし?の飯も食べ損ねたし?」



そう言われ、はグッと言葉に詰まった。
「日が昇るまでに、朝飯を用意して驚かせてやるんだから!」と昨日散々大口叩きまくっていたからだ。
あんなこと言わなければ良かったと、今更後悔した。

それに――とて、佐助のことが嫌いなわけではない。
というよりも、感情を押し殺すのが忍の宿命だというのに、この世にいる誰よりも愛してしまっている。
佐助の言う行為が嫌なわけでは、決してない。
ただ、穴があれば入りたいほど、恥ずかしいだけである。
佐助もそんな彼女の性格は百も承知、その上であえて自分からしろと言うのだから、イヤな奴だとはつくづく思った。



「〜〜〜〜っ…わ、分かったわよ…そ、そのかわり、目…閉じてなさいよ?」
「はいはいっと」



必死な形相でそう言うに内心笑みを潜めながら、佐助は薄く目を閉じた。
彼の腕を掴む力をわずかに強め、ごくりと唾を飲み込むと、
はぎゅっと目を閉じ、血のにじんだ箇所に自身の唇を押し当てた。

柔らかく、温かみのある感触とともに、ぬめりとした、水気を帯びた生暖かい何かが、傷口に触れた。

少しして、温もりが離れた事に少々の名残惜しさを感じながら佐助がゆっくりと目を開ける。
頬を紅潮させたが、居心地悪そうにそっぽを向いているのが分かった。



「…錆びた鉄のにおいがして、気持ち悪い。 ……は、恥ずかしいから見ないでくれる…?」



そう言葉を紡いだの唇に、自分のものとしか思えない血が少しばかり付着しているのを見て、
佐助には、不思議とそれが嬉しく感じた。
口角をあげ、ぐいっと彼女の顎を持ち上げれば、目を見開かせたと視線がかち合う。



「じゃ、今度は俺がの口内を消毒してあげるよ」
「は…ハァ!? い、いい…いや、むしろ いらな…ッ!」

「そう遠慮するなって。 じゃ…イタダキマス」



ニヤリと妖しげに笑った佐助に文句を言う間もなく、のしっとりと濡れた唇は、彼の深く、甘い口付けによって塞がれた。


結局、二人が信玄の下へ出向いたのは、時間ギリギリの頃であった。











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あとがきとか

5555hitを踏みました百合様に捧げます、佐助夢です。
リクエスト内容は「甘々」ということでしたが…あ、甘々…?
すみません、「甘い」の判断基準が分からないあまりに、こんな恐ろしいことに…!!
シラフでは書けなくて、真夜中にコツコツ書いておりました。
助平は駄目だと言われていたのに、幸村に言わせればハレンチな佐助になってしまいました。
わ、私の中での精一杯の甘々です…!!これは!

どうぞ、こんなハレンチ佐助で良ければ貰ってやってくださいませ、様。
(お菊は、ストーリーの都合上で出てきただけのオリジナルキャラクターでございます)

 環琥宇 鈴華




☆後書き返し
ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!!
さ、佐助が格好良い!!
まさかこんなに格好良い佐助がくると思わなかった!
もはや私の好きな政宗様を超える格好良さだよ!
えぇ!?みたいな、格好良すぎて。ついにやけてくる
鈴華様は甘々があまり得意ではないと常々、言っておられますがそんなことないよ〜!
何かね、解るの。読んだ後に、鈴華さん、恥ずかしかっただろうな〜って。
嫌な思いさせちゃったかな〜って思ってキリバン踏んだらまた甘々頼むんだよね(笑)
鈴華さんの書く甘々夢大好きです〜!
佐助もファンになりました!この夢はどこどこが好きで、とか言うのだけれども全体が好きでうまく言葉が繋がらないですよ?
Ya−ha−!鈴華さん、ありがとう〜!!愛してる〜(←ウザい)