「や…山崎?」
          「うん、それでいいよ」





     真選組血風帳

          4.あの声で蜥蜴食っちまうとはなァ…時鳥さんよォ









          隊士の誰かに起こされて、近藤を起こして、
          大人数の食事を用意して、洗濯をして、掃除をして、後はぼーっと過ごす

          は、近藤の過度な心配性のせいで、ろくに外に出れずにいた
          というか半分はシスコンからくるものだが

          病はもう完治しているものの、体が弱いことには変わりない
          それはわかっている

          けれど、ずっと家に居てぼーっとしていたのでは逆に病気になりそうだった


          「外が…見たいな…」


          ぽそり、と呟いた一言に山崎がミントンを振るう手を止めて振り返った
          山崎はよく土方の命令でを見ていた
          たわいもない話の相手から始まり、今では二人はすごく仲が良い
          近藤の血筋からかは朝寝起きが悪いのだが、山崎が起こしにくるとすんなり起きるのだ

          そんな、お互いに良い友情関係を育んでいた



          「…行こうか?」
          「え…?」
          「俺も一緒に行けば大丈夫だよ。副長に言って、1時間くらいで戻って来れば良いし」
          「……」
          「あ…それとも、俺とは嫌…かな?」
          「う、ううんっ」


          縁側に座っていたを見れば、嬉しそうに頬を染めていた
          特に何かを言う訳ではないが、嬉しい、と目で語るの愛らしい表情に山崎も
          嬉しくなり、ミントンを壁に立て掛けた。


          「それじゃ、行こうか」
          「うんっ」














          出店を回り、甘味屋に入って、小物屋を巡り、道端の芸なども一見して、
          江戸巡りは終了した

          1時間のはずが、2、3時間はかかってしまうもので、
          茜さす空に気付いた山崎は満足そうに飴玉を口の中で転がすの手を引き、
          帰路を辿っているところだった


          「たくさん歩いたからね…ちゃん疲れてない?」
          「うん、大丈夫だよ。ありがとう」


          は普通の少女だった

          正式な場や、初対面の人には敬語と行儀作法を忘れないようにと教えられたのだろうか、
          その動きひとつひとつはとても上品で美しい

          だが、山崎にしてみれば、こうして自分たちに慣れ、
          ありのままの姿をさらけ出しているの方が数倍可愛く見えた


          「今日はすっごく楽しかった…。また来たいな」
          「副長も許してくれるよ。また来ようね」
          「…うんっ」


          ぱぁっと輝く顔
          そう、この顔に弱いんだ、と心の中で呟く

          すでに隊内では人気上昇中のだが、原因はこの笑顔でもあるだろう
          そのうえ、料理も上手くて素直で男を知らない真っ白さ
          手に入れたくなる気持ちもわかる
          だが、素直に動けば間違いなく土方か沖田に殺られるので、
          隊士たちはちょっとずつアピールしていた

          が清純すぎて近づけない、と嘆くものもいたが…


          「ちゃん?」


          くいっと手が引っ張られて振り返ればが立ち止まっていた
          視線の先を見れば小さな空き箱が1つ、中にはにゃー、と鳴く小さな命がひとつ


          「ねこちゃん…捨てられたのかな」


          薄暗い路地裏に臆すことなく入っていくの後を慌てて追い掛けた


          「ちゃん、駄目だよ、こんなところ入っちゃ」
          「でも…この子…。独りぼっちだし…かわいそう…」
          「うん…そうだね…」


          もう何日えさをもらっていないのだろう
          小猫だが、その小さな体は痩せ細っていた


          「山崎…この子、屯所で飼っちゃ…駄目、かなぁ…?」


          の白くて柔らかい手が子猫に近づくと必死に擦り寄るその命

          捨てられたくない、見離されたくない、そんな気持ちを全身で押し出すかのように、
          の手を懸命に舐めていた


          「やっぱり…怒られる…よね?」


          しゅん、と落ち込むに代わって子猫を抱き上げた
          の腕におさめてやれば嬉しそうに鳴く


          「この子はちゃんが好きみたいだし…一度、連れて帰ってあげよう。
           飼うかどうかはこの子が落ち着いてから考えてあげればいいよ」
          「山崎…っ」
          「さ、帰ろう。また少し暗くなってきたし」


          満面の笑みでが頷いた。
          そっとさりげなく手を差し出すと、の手が伸びて…
          あと少しで重なるという時、後ろから野太い声が響いた。


          「真選組が局長、近藤勲の妹、御命頂戴つかまつる
          「ちゃん…っ!!」


          ぎらり、と刀が光るのを見たのは遅く、
          こちらも鞘から抜くのは無理だととっさに判断した山崎は、をかばった

          突然の事件にはわけもわからなかったが、ざくっという音の後、滴り落ちる血


          「山崎っ!!!」
          「ちゃん、さがってて…、こいつらは君を狙ってる」


          刀を抜けば、斬られた腕が痛んだ
          斬られたのが効き手ではなかったのが唯一の幸いだろうか


          「くく…前にばかり気をとられて大丈夫か?」


          しまった、と振り返れば時既に遅し
          男の仲間がの喉元に小刀を突き付けていた


          「俺たちの読みは正しかったようだ。
           近藤の妹、と聞こえはいいものの生粋の箱入り娘らしいな。
           そのうえ自分をかばった男を見て泣くことしか出来ない甘ちゃんだったとは…」
          「…っ」
          「消えてもらうぜ、真選組のお荷物さんよ」


          ぐいっと顎を上げられて、顔を突き合わせられる

          男が満足気に鼻をならした、と思ったら次の瞬間、男がうずくまった

          が動いたのだ
          履いていた草履を脱ぎ、男の股間をパンッと叩いた


          「テメェ…よくもまぁ俺の苦労も知らずにベラベラ喋ってくれたなァ、オイ」
          「ちゃん…?」


          目と耳を疑う
          しかし、確かにがそう言っている


          「お前ら病気で一年以上屋敷の中で引きこもったことあんのか?
           人参の皮剥いたことあんのか?
           …俺はなァ、お荷物って言われるのが嫌で江戸に来たんだよ。
           何も知らねぇくせに腑抜けたこと言ってんじゃねェェ!!!
          「す、すいやせんでしたー!!」×2



          ばたばたと男二人が逃げて行った

          それを見届けたかのようにばったりとが倒れた
          慌てて抱き上げればいつものやんわりとした笑顔を浮かべていた


          「山崎…っ。良かったぁ…山崎、無事で…」
          「ちゃん…」


          ほっと一息つく

          さっきのは何だったんだろう
          もしや、気にしていることを言われて、彼女なりに『キレた』のかもしれない、
          と山崎は思った













          「山崎…大丈夫?」
          「これぐらいなんともないよ。掠っただけだしね」
          「そっか…。……ごめんね」
          「ちゃんが謝ることなんて無いよ。俺の不注意で怖い思いさせちゃってごめんね」
          「そんな、山崎は…っ」


          山崎の手のひらがの口元を覆う

          じゃあお互い様ってことにしよう

          優しくそう言って笑う山崎にもくすり、と笑みを零した


          夕日色に染まった道に、二つの影が伸びる

          仲良く手をつないで歩く二人の友人同士を祝う

          の腕の中で丸くなっていた猫が幸せそうににゃー、と泣いた




          「(ちゃんてやっぱり…局長の妹なんだなぁ…)」















          あとがき

          山崎です。というかヒロインいっきに灰汁が強くなりましたね〜(笑)
          基本的にギャグ調でいきたいなーと思っている連載なので、
          やっぱどこかギャグでないとそわそわする…。
          前回があんまりギャグなかったので尚更だったのかもしれません…。
          次回も灰汁が出続けるヒロインを…!