「ちゃん…何してるの?」
          「や、山崎…」




     真選組血風帳


          5.無くて七癖 見ちまったもんは仕方ねェ






          夕刻、屯所内の大広間より、無数の男たちの声があった


          「まさか…、ンな訳ねぇだろ」
          「本当だって!」


          夕飯を済ませた後は大体の隊士がここに集まっていた
          街で聞いた噂話から取り留めのない世間話まで、様々な話題で盛り上がっている

          最近は沖田や土方がいない時にはここぞとばかりにの話で盛り上がっていた

          そして、今現在も彼女の話をしていたところなのだ


          「何の話ですか?」
          「おう、山崎
           お前、ちゃんと特に仲良いだろ?こいつに一言言ってやってくれよ」

          こいつ、と指差された人物は山崎と同じく真選組が監察の一人だった

          彼もまたうちの「アイドル」のファンのひとりのようだ


          「別にそうと決まった訳じゃねぇ。だから、〜かもしれない方式で言ってんだろ?」
          「…お前が言うとなんかきなくせーわ」
          「もしもーし、俺、これでも監察なんですけど」
          「で、何を見たって?」


          少し荒々しく座りながら急かすと、相手は一瞬ためらい、しかし咳払いを1つして口火を切った



          「…俺ァ、ちゃんに男が出来たと思うんだ」
          「………男?」
          「彼氏だよ、彼氏!ったくこれだからジミーは…」
          「地味関係ねぇだろ!!!っつーか、それくらい意味わかってるからね!」


          ツッコミを入れながら続きを言うよう視線を交わすと、同僚は頷いた


          「毎夜、決まってちゃんがどこかに出掛けてんだよ。
           ほんの30分したら戻ってくるんだが、出て行く時も、戻ってくる時も、人の目を気にしてきょろきょろしてるし…」
          「そうか…」

          何処にも見当たらないと思ったら出掛けていたのか…
          ぼんやりそう考えていると別の隊士が口を開いた


          「局長がアレだからな。
           彼氏と堂々と逢えんのかもしれん。
           …だから夜にこっそりと…」
          「だからって彼氏かどうかもわからないでしょう」


          はは、と笑うとその笑いを阻止するように隊士がテーブルを叩いた


          「山崎!そんなに軽く流してどうすんだよ!
           俺たちのちゃんなんだぞ!」
          「いや、それは何か違うような…」
          「ちゃんはあの通り美少女だし、大人しいし…。
           悪い男に捕まって、如何わしいことでもされたりしたら…
           俺ァ…俺ァ…っ!」
          「それに山崎…お前チャンス減っちまうかもよ?」
          「何のチャンスですか…。
           そりゃあ確かにちゃんは可愛いけど、仲良い友達みたいな感じなんで…」
          「あーあぁ!みなまで言うなって!」
          「いや、あの、人の話聞いてます?」

          「とにかく、お前ちゃんに直接聞いてこい」
          「な、何で俺が…」
          「お前にだったら万が一危険なことに巻き込まれてたとしても話してくれるって。
           なんせ、お前とちゃんは『仲の良い友達』だからな」















          「何で俺が…」

          小さく呟きながら山崎は茂みに隠れていた
          の部屋、もとい近藤兄妹の部屋に面している庭の茂みである

          夜抜け出すならここを通るはずだ、と山崎は思っていた
          廊下側から玄関へ向かえば必ず鬼の副長土方の部屋の前を通ることになる
          そうなったら外に出ることなど許されるわけないだろう
          日中でも外に出るのは許可と強い説得がいるのに、夜など絶対にあり得ない

          だが、この庭なら塀に沿って進んでいけば裏門へと通じている
          裏門は警戒態勢の時以外は見張りの隊士などは全くいない場所だ
          その代わり頑丈な錠前がいくつもしてあるが、内からなら容易に外すことができる

          本人に直接会って確かめるのも良いが、それだと嘘を言われてはこちらも困ってしまう
          問い詰めれば簡単に堕ちるだろうが、山崎の良心がうずいた

          そこで、実際に外へ行く現場を見てから行動に移そうと考えたのだ


          「そろそろかな…」


          この時間になれば、近藤が明日の予定などを話すために土方の部屋へと移動する
          兄がいなくなった隙を見計らって出てくるに違いない

          近藤が部屋から出て行って待つこと数分、思ったとおりが縁側の障子を開けた
          きょろきょろと辺りを見回しながら草履を地面へ降ろす
          夜の冷たい空気にくしゃみをひとつこぼして庭の奥へと進んでいった


          「(ああ…あんな薄着でしかも風呂上りに…っ。危ないこと山の如しだよ、ちゃん…ッ!!!)」

          今すぐにでも駆け寄って隊服を上からかぶせてやりたいが、現場を押さえなければならない
          の姿が闇に消えていってしばらくしてから自分もその後を追った




          「(鍵を…外してる…)」


          山崎は裏門にたどり着いた
          そしてが鍵を外しているのを見ていた

          おそらく近藤が持っている鍵だろう
          全ての鍵が開いて、音をたてないようゆっくりの腕が門を押し開けた

          キィ、と音をたてて門を閉じようとした瞬間、の手首を山崎が素早く掴んだ


          「きゃあっ!」
          「しーっ!俺だよ、ちゃん。山崎…」
          「あ、や、山崎…」


          門の外のすぐそばには電灯が一本建っていた
          おかげで互いの表情がよくわかった


          「こんな夜中に何処行くの…?」
          「……っ」
          「しかも毎晩、この時間に出掛けてるんだってね?」
          「な、なんでっ…」
          「確かに外へ行くことを中々許されない生活に嫌気さす気もわかるけど…
           誰にも相談しないで夜中こっそり抜け出すのは感心出来ないな…」
          「………」


          しゅん、と落ち込んでしまったの表情にこれ以上は責めたてたくなかったが、
          これも彼女の身の安全のため

          山崎は自分の隊服の上着をぬぐとにかけてやった


          「俺たちは、ちゃんに何かあったら悲しいよ。
           それは局長の妹だからってことだけじゃない。ちゃん自身だから…。
           俺の言ってること…わかるよね?」
          「うん…ごめんなさい…」
          「良いから…どうして毎晩抜け出してたの?」
          「うん…。あの…ね…」










          「え?」
          「こういうこと…だったの」


          煌々と照りつける電気がまぶしい
          入った時に鳴るピンポーンの音は夜聞くとやけにテンションがあがるものだが、
          目の前の文字に山崎は目を丸くするしかなかった


          アイス全品タイムセールス


          「毎日22時過ぎたらやるみたいで…。
           私、アイス大好きで…アイスが無いと死んじゃうくらいアイス好きで…。
           でも、昔アイスばっかり食べてると虫歯になるって土方さんに言われて買ってもらえなかったときがあったの…。
           だから土方さんには頼み辛くって…こっそり夜中に買って、食べておけばバレないかなーって…」
          「あ、………そ、そう」


          が脱走の理由を明確にするため山崎を連れてきたのは近くのコンビニだった
          毎晩ここでアイスを買い、表のベンチで食べてから帰るらしい

          抜け出していた理由があまりにも予想とはずれていたため、安心したような、あっけにとられたような、
          なんだかよくわからない状況にいた


          「あ、山崎も食べる…っ?」
          「うん…もらおうかな。俺が払うよ」
          「え、いいよ…っ。お兄ちゃんからお小遣いもらってるし、今日は山崎に迷惑かけちゃったし…」
          「じゃ、1つを二人で買って半分こしようか」
          「あ、それ良いね…っ」


          最中アイスバニラ味100円を買って、コンビニを出た
          時間が時間なので屯所へ帰る道々食べながら帰路を辿ることにした
          行儀が悪いが、土方に見つかってどこに行ってきた、とどやされるよりはマシだろう


          「副長も、ちゃんと言えば許してくれるよ。
           それにもし駄目だったら俺が市中回りの時に買ってくるし」
          「本当っ?ありがとう…!山崎…!」


          よっぽど嬉しかったのか、が山崎に抱きついた
          普段大人しいが少女っぽいところを山崎の前で見せたのは二回目で、思わずどきりとしてしまう

          頬が少しずつ熱くなっていくのを感じた
          女の子に抱きつかれたことなんて一度もなかったからである


          「すっごい嬉しい!あ、これも山崎にあげちゃう」
          「え、でも…」
          「あー、もう屯所だ…。じゃあ明日一緒に土方さんのところに行こうね」
          「う、うん…あの、ちゃん…」


          手渡された食べかけのアイスに山崎はどうしていいかわからなかった
          確かに残るの小さな歯型
          これを食べるということは…


          「(か、間接キ…)」


          を部屋に送りとどけてから山崎はひたすら庭でアイスを持ったまま立ち尽くしていた


          翌日、どろっどろに溶けたアイスを見つめながら立ち尽くす山崎が発見された…


















          あとがき

          またまた山崎
          そしてヒロイン濃い…!
          このヒロインのアイス好きは私と同じ〜v
          しばらく食べないと暴れだします(笑)

          あぁー…アイス食べたくなってきた…
          今から食べよ…♪