「山崎ごときが、山崎の枠越えていこうだなんて考えるだけでも一億年早いぜィ」
「ちょっ待って下さい…ッ、ギャアア!!!」
真選組血風帳
6.山崎よ当たって砕けよ っつかお前誰だァァ!!
「…どうしようかな、これ」
任務からの帰り道、山崎は二枚の紙を手にして悩んでいた
紙にはデカデカと大江戸遊園地一日フリーパスと書かれている
「俺が貰っても一緒に行く人がいないし…誰かにあげようかな」
そう呟き、屯所の門をくぐった
「お帰りなさい、山崎。お仕事お疲れ様」
「あ、ちゃん」
台所から大量の野菜を抱えてが出てきた
それらは全て今晩の晩飯の材料となるものだろうが、その量といったら半端じゃない
それらを一人で切り盛りしているのだから、の家事力は凄かった
「今日はみんなの好きなカレーだよ!」
「本当?ちゃんのカレー美味しいから好きだな、俺。
あ、ちゃんの料理なら何でも好きだけどね」
「ふふ、ありがとう」
ごしごし、と土のついたじゃがいもを桶に張っておいた水で落としながら、が微笑んだ
江戸に来てからようやく2週間くらい経っただろうか、
の体は昔病弱だったとは思えないほど丈夫になっていっていた
やはり武州での暮らしは、空気こそ良いが近藤たちがいないせいで寂しさを募らせるものだったのだろうか
「山崎」
「ん?」
「あのね、ずっと思ってたんだけど…あれ、何?」
ずいっとが指差した方向を見れば、遥か彼方に見えるソレ
巨大な、観覧車だった
「あれは観覧車だよ。大江戸遊園地の」
「ゆ、遊園地っ?うわぁ…やっぱり江戸だねぇ…そんなのもあるんだぁ…」
はわーと気が抜けるような声を出すに笑みを1つこぼした時、山崎の中の何かがはじけた
これ…チャンスじゃね?
彼女は明らかに遊園地に行きたがってる
しかも俺は運よくその遊園地のフリーパスを持ってる
結果、一緒に行くことになる
パンパカパーン!と全てがイコールで繋がった瞬間を感じ、
嬉しさのあまり握り締めた拳が震えた
一度でいいから、女の子とデートしたい
それは健全な男の子であれば誰でも考えることだろう
しかし、山崎の人生でデートと呼べるものは数少ない
強いて言うなれば、この間のと一緒に江戸観光へ出かけたときぐらいか
「(そう思うと、俺って…なんて悲しい人生送ってるんだろう…)」
ころころと表情が変わる山崎を不思議そうに見つめる
その視線に気づき、あわてて笑顔をとりつくろった
「あ、あのさぁちゃん…」
「うん?」
「実は俺、遊園…」
ドガァァァァン!!!
「きゃあっ!…な、何…」
もわもわといかにも怪しげな黒い煙が屯所の中から流れ出てきた
襲撃か、と身構えるまでもなくいつも通り聞きなれた喧嘩の声が響く
それだけで大丈夫だと安心してしまう自分は長くここの空気を吸いすぎた
も大事ではないと悟ったらしく、びっくりしたね、と言いながら野菜洗いを再開していた
「また総悟だろうねー…もう…、総悟、昔っから土方さんにひどいことばっかりするんだから…」
「そ、そうだね…」
しまったァァァ!!! 完全に言うタイミングをのがしたぞ!!
心の中でそう絶叫しながら、特にすることもなく、庭に生えている雑草を引っこ抜く
負のオーラを濃く放つ山崎に、再びが小首を傾げたのは言うまでもない
「山崎…さっき、何か言いかけなかった?」
「え、あ…。えっとね、ちゃん!」
「う、うん」
落ち着いたのか、真剣な表情で向き直る山崎にの心がちょっと揺れた
あまりに真っ直ぐ目を見られると人間誰しも照れるもんである
「俺と遊園…」
「ちゃん今晩のメシ何―!?」
今度は見回り隊の一部が帰って来たらしい
バタバタと一日中汗にまみれた男臭い隊服での周りがいっぱいになる
そんな奴らに臆すことなく、カレーだよ、と微笑む
喜びの絶叫をあげる隊士たちであった
「山崎、ごめんね。後で聞くね」
「え、あぁ…うん、良いよ…大したことジャナイシ…」
「(・・・?)そう?じゃあ…」
野菜を無事洗い終えて、は台所の中へ再び帰ってしまった
彼女が今まで座っていた縁側の縁に腰掛けて、山崎は重いため息を吐いた
「お代わりいっぱいあるからね」
「いただきまーす!!!(×無数の声)」
「ー!!お前はやっぱり優しい子だなァ・・・!!お兄ちゃん涙が・・・」
「もう・・・にんじん小さくしたことぐらいで泣かないの・・・兄上、そうしないと食べられないでしょ?」
「美味いィィィ!!!」
これだけ離れていても聞こえてくる声、声、声・・・
山崎は自室にて悶々と悩んでいた
「捨てるのはもったいないしな・・・いや、でも・・・」
「山崎?」
「うおっ!!」
背後から突然声がかかり、慌てて振り返れば障子にのシルエットが見えていた
「ごめんね・・・?驚かせちゃった?」
「う、ううん全然!ど、どうしたの?」
「山崎、ご飯に来てないから・・・体調悪い?」
「い、いや・・・あ、入って!そこ寒いし・・・」
少し躊躇があってからすーっと障子が開いた
はカレーとサラダがのった盆を持って中に入ってくる
「ご飯・・・食べれる?何ならもっと消化に良いものとか・・・」
「いや、カレーもらうよ!わざわざごめんね・・・」
から盆を受け取ると、大慌てで頬張った
腹はやっぱり空いていたらしく、自然と手つきが早くなってくる
そんな山崎の様子には安心したのか笑みを零した
じっと見つめられていると食べづらいだろうと思って視線を他に外そうと
部屋を見回せば、二枚のチケットが目に入った
大江戸遊園地一日フリーパス券
そう書かれているチケットである
「山崎・・・これ・・・」
「うん?あっ!!それ・・・」
「彼女と行くの?」
「かっ彼女・・・!?え!?い、いや俺そもそも彼女いないし・・・」
「え、そうなんだ・・・」
「俺は・・・その、ちゃんと行きたいかなって・・・」
「本当っ?」
うわぁ・・・との声が漏れた
口元を手に覆い、ほんのり頬を朱に染めている
「嬉しい・・・すっごく嬉しい・・・」
「ほ、本当?」
「うん・・・っ。山崎と遊園地行きたい・・・!」
「そ、そっか・・・俺も、嬉しいよ・・・」
人生初のデート!
そうテロップが山崎の頭の中に流れていった
知らずに
先ほど少しだけ見せた山崎の優しい笑みが、
頭にこびりついているを
遊園地に行けるという嬉しさだけで頬を染めているのではないを
ぱちん、と火鉢の火がはじけるような
何気ない音だけが、知っている
そして、息をひそめて見ているヤツも
知っていた
あとがき
山崎…しばしお休み?に入ります。
次からは沖田。まぁ、すーぐ舞い戻ってくると思いますが(笑)
血風帳の終着口、というか着地点がようやく完成しました。
なのでこれからはあまりギャグっぽいのやほのぼのっぽいのは無いかもです。
というか近藤さんメインのやつを書きたい…