「本日のラッキー星座はかに座のあなた
今年に入って一番の良い日になるでしょう」
真選組血風帳
7.一寸先は闇の夜…なんておとろしい!!
携帯が揺れた
ポケットから取り出して開けばメールが一通届いている
カチカチ、とボタンを押して中身を確かめると思わず笑みが零れた
「テメッ…総悟!剣抜いてる時に携帯チェックしてんじゃねェェ!!!」
「だって土方さん、敵さんすげぇ弱いですぜ?暇で仕方ねーや」
ガウン!と大きな音が響く
沖田が打った大砲が向こうの建物に当たった音だ
土方と沖田は数人の隊士を連れて攘夷志士のアジトを潰しにきていた
桂や高杉のような大規模なアジトで敵の数が多いところは同じであったが、総じて弱かった
真選組の圧勝がほぼ決まるか、決まらないかの瀬戸際だった
再び激しい爆音が響き、土方と沖田が顔を上げると、向こうから隊士が走ってきた
「副長!敵の大砲は潰しました!あとはもうこっちのモンです!」
「よし、一気に片をつけるぞ!」
「はいっ!」
士気が上がった隊士を満足そうに見やると、土方はその場に腰を降ろした
新しいタバコに火をつけ、くわえる
ふっと見上げれば、沖田がまた携帯をいじっていた
「携帯依存症か、お前は…」
「違いまさァ。に返信してるだけでィ」
「あのチビ…、メールなんざ打てるようになったのか?」
「両手で打つんですぜ、可愛いでしょう」
武州で長く育ったが江戸へ来て驚くものはまだまだあった
そのうちの1つ、携帯電話の普及である
つい先日、近藤に買ってもらい、大事そうに持っていたあまり
電話をかけることしか出来なかったが、沖田やその他の隊士たちに教えてもらい、
ようやく使いこなせるようになったのだ
「お前、チビに…」
「言ってやせん。にこんな所で人殺しやってる、なんざ言えねぇでしょう。
真っ青になって泣くに決まってらァ…」
「…そうか」
「今は土方さんのパチンコ依存症を止めるために、パチンコ屋に来てまさァ…と」
「テメェ…嘘つくならつくでもっとマシな嘘つきやがれ」
「ちょっ、こっち見ないでくれやすかィ?
その視線だけで俺も感染しちまいそうだァ
今年は受験じゃねーから、予防注射行ってねーってのに」
「インフルエンザか俺は!!」
その時、再び沖田の携帯が震えた
どうやらから返信が来たようだ
中身を読むやいなや、沖田の口元が緩んだ
「土方さん、今日はかに座の運勢が良いんだそうです」
「お前…星占いなんざ信じてんのか?」
「いーえ。でも、が言うんだから間違いねぇでしょう。
というわけで、俺がラッキーな一日を迎えられるように、死んでくれやせんかィ?」
「誰がだ…」
「だって土方さんの今日の運勢、救いようもねぇぐれェに悪ィから殺してやってくれってが…」
「言うわきゃねぇだろうが!!」
「副長!!」
再び隊士が走ってくる
嬉々とした表情からは、ある程度のことは読み取れた
「総悟、お前一番隊と二番隊連れて引き上げろ
後の処理は俺と十番隊でしておく」
「わかりやした。そいじゃ、後のことしっかりやっときなせェ、土方」
「テメ…」
「―、、どこですかィ?」
とたとた、と沖田は屯所の廊下を歩いていた
てっきり台所にいるかと思ったのに、そこには隊士たちの昼飯しかなく、
一足先に飯を済ませると、沖田はを探し回った
屯所から抜け出した形跡はないし、きっとどこかにいるのだろう
そう思って、廊下を回っていた
「…?」
ふっと視界の端に淡い桃色の着物がよぎったような気がして振り返ってみると、
目の前の光景にすうっと血の気がひいていくような気がした
「…」
声をかけても、返事をしない
…倒れているように見える
沖田の心臓が激しく脈打った
「!」
駆け寄りその体に触れれば、温かい
規則正しく上下する肺と、安らかな寝顔に安心した
「驚かせ…やがって…」
日当たりの良い縁側では眠っていたのだ
そう
眠 っ て い た
「眠って…」
どこかで見た光景が浮かんだ
―――眠っている
ずっと、このまま
もう、動かないかもしれない
「前にも…ありやしたねィ」
「眠ってる…んだよな?」
「わからん…それよりもこの血の気の失せた頬よ」
気がつけば、あの頃の自分へ戻っていた
武州にいた、あの頃の…
「近藤さん」
裾を引っ張っても、近藤は何も言わず、動かなかった
ただ頬を濡らすその涙が、布団に落ちて染み込んでいくのを見た
「死なんでくれ…!
俺は…俺はまだまだお前に見せてねェもんが山ほどあんだ…!」
泣いているせいか、声は裏返っていた
そっと布団の中に手を入れると、冷たい
がいる布団を取り囲んで、大勢の人間がいた
泣き出す女もいれば、目をそらす男もいる
歯をくいしばって泣く近藤と、何も喋らずただ一心にを見つめる土方
「…死んじまうんですかィ?」
ダメでさァ、そんなの許さねぇ
そう言おうとしたが、喉につまって言えなかった
口の中はしょっぱい味がした
「総悟…?」
自分を呼ぶ柔らかい声にはっとした
いつのまにか手を握り締めていたんだろう、手のひらに食い込んだ爪のせいで血が滲んでいる
「起きやしたか?」
「うん…寝てたんだね…私。ここ、ぽかぽかしてて気持ち良いから…」
手のひらを見ている沖田につられて、も手を覗き込んだ
「血、出てるじゃない…!
ちょっと待ってて、薬取ってくる!」
「待ちなせェ!」
思ったよりも大きい声が出た
はひるんだのか、目をぱちくりとさせている
「総悟…?ねぇ…どうしっ…!!」
は沖田の腕にがっちりと抱きしめられていた
突然のことにどうして良いかわからず、離れようともがいてもびくともしない
「総悟…今日、変だよ…」
どきどき どきどき
自身の心音がこだまする
胸がぎゅっとしめつけられたような、息がつまるような
―――早く、離れなければ
の本能がそう悟った
「知ってやしたかィ?
俺の初恋は…なんでさァ」
「っ!!」
「…?」
かたかた、との肩が震えていた
そっと腕を放し、顔を見やるとは静かに泣いている
「そんなこと…聞きたくない…」
「…っ」
「それに、私…好きな人、いるから…」
ばちん、と音をたてて電源が切れたような気がした
今日、かに座が一番ラッキーなんだって!
良かったね、総悟
きっと楽しい一日になるよ♪
「星占い…外れやしたねィ…」
腕の中で震える背中に、そう呟いた
あとがき
物語を終焉へ向かわせ、なおかつ展開を広げようと思ったらこんなことになりました。
そろそろ本来のギャグというかほのぼの風味に戻りつつ、核心へ、終焉へ向かわせたいです…。