「37.5…、かぁ」
「これはお休みね。亮、そろそろ…」
「まだ大丈夫だって。おふくろ、今日仕事大丈夫なのか?」
「それなのよ…、さっき、大至急レジに入ってくれって言われて…」
「……、、1人になっちまうな…」


鞄を持ち上げ、宍戸は顔をゆがませた
母も病人を1人家に残すことが気がかりらしい
だが、宍戸と母の心配は一般的なこととは少し違った
「・………、俺、今日はなるべく早く帰ってくる。部活も休む」
「私も夕方には帰ってこられるようにするわ。
 、お粥作っておくから、起きられたら温めて食べなさいね」


母に頬を撫でられてほんの少し上気した頬は布団の中から覗いて、首を縦に振った
宍戸と母は何度も家を振り返りながら成す術も無く、学校へ、職場へ、向かった





            淋しがり屋の妹















「あぁ、宍戸。調度ええトコに。
 ちゃん、何処におるか知らへんか?」
に何の用だよ」
「いや何、昨日街でちゃんにむっちゃ似合いそうなリボンがあってな。
 思わず買うてもうたんや。ほんでそれ渡そうかな、思て」
なら、朝から熱出して休みだぜ」
「え、ほんま…!?」
「あぁ」
「そうかぁ…そら残念やわぁ。
 ほんなら、これお見舞い品として渡しといてや」
「おぉ」
「あーん?宍戸妹は休みだと?」
「跡部…おったんか…」


振り返ると隣に樺地を引き連れた跡部が腕を組んで立っていた


「そうだ、風邪で」
「ちっ、仕事があったのによ…、おい、ジロー!
 お前、見舞いとか行くんじゃねぇぞ。この時期にうつされるとやっかいだ」
「お前、をウィルスみたいに言うなって…」
「え〜、そんなのちゃんが淋しくて可哀相じゃん、跡部冷たいC−」
「淋しかねぇよ、あいつは宍戸さえいりゃ良い体質だからな」
「せやなぁ…、宍戸、栄養あるもん作ったりや」
「お、俺が作るのかよ!」
「当たり前だろ」
「宍戸やないと意味ないやん」
「E―な〜、宍戸。ちゃんにご飯作ったげられるなんて」
「兄貴の特権だな」
「ちょ、待てって。か、勝手に…っ、決めるなーっ…!」


宍戸の叫びが氷帝学園に響いた


















スーパーに1人で来るなんて初めてかもしれない
普段は荷物持ちとしてや母に着いてきたりするだけだ
知り合いに合うかもしれない、という心配を思い出し、とりあえず例のメモを取り出した

例のメモとは、
跡部たちと話し合った結果、料理は食べやすく、栄養があるということで「雑炊」に決定したものの
具材が個人個人でバラバラになったため、とりあえずメモにまとめておいたのだ


「……とりあえず、信用あるやつから見てくか。
 っと、長太郎はウコッケイの卵…ウコッケイって何だ…?
 …ま、いいか普通の卵で。
 若はネギ…、とりあえずここまで買っておくとして…」


問題はこっからだ…


「納豆、ラム肉、ズ、ズッキーニ…?なんだ、ズッキーニって…
 キャビアでも可…って近所のスーパーでキャビアが売ってっかよ!!」


と、いうわけで
自動的にオーソドックスな卵とネギのおじやに決定した
もちろん卵は「岡田さんちのにわとりさん」だ
レシピは樺地が書いてくれたので間違いない
それでも果たして自分に出来るんだろうかと緊張した面持ちで家に帰った





家に近づけば、玄関の前に危ない足取りのを見つけた
朝見たときよりも赤い顔で扉に寄りかかっている
頬には幾筋もの涙の跡があった


「あ、お兄ちゃん…お兄ちゃん、お兄ちゃんっ」


宍戸の姿を見つけるなりは抱きついてきた
これが、宍戸と母が心配していたこと

は風邪をひくと極度の淋しがり屋になるのだ
傍に誰かがいないと、心細くなって泣きとおし中々寝付くことができない
年齢を重ねるごとにその癖は少しずつ減ってきたものの、
今回はそうもいかなかったらしい


「ほら、もう大丈夫だ。…悪かったな、ひとりにして…
 淋しかったよな…」
「…ん、うんっ…」
「あー…泣くな、ほら、俺がいんだろ」


安心させるように頭を撫でると胸に顔をうずめた
やがて落ち着いたのか、赤子のように加減出来ない力が弱まっていく

宍戸はとりあえず家に入ろうとスーパーの袋と鞄を腕にさげた
次いで、を抱き上げる


「お兄ちゃん…、スーパーに行ってきたの?」
「え?あ、あぁ…まぁ」
「卵とおネギ…?何か作るの?」
「その…に雑炊でも作ってやろうかと思って…」
「ほんと!?わぁ…楽しみ…」
「だから、大人しく寝てろよ」
「うん!お兄ちゃんの鞄、部屋に持ってっとくね!」
「おい、走るなって…!」


家の床に降ろされるや否やは宍戸の鞄を持って行ってしまった
宍戸もため息をひとつ零して、戦場という名の台所へと向かった


「まずは、湯を沸かす…か」


慣れない手つきで棚から鍋を取り出し、水を張る
次いで出汁を取るためにとかつおぶしと昆布を出した
出汁のとり方は、前に家庭科でやったことがあるので安心だ

何とか鍋に火をかけ、樺地レシピを見てみると、材料を切る、とあった
切るといってもこの場合、ネギを刻む程度なのだが、ほとんど包丁を
持ったことのない宍戸には心臓バクバクものであった


「お兄ちゃん」
「うわっ!な、なんだ…?」
「あ、ごめん。驚かせちゃった?…あのね、お風呂…」
「俺が後で洗うから置いとけ、お前は寝てろ」
「うん…」


「(あー…びびったぁ…)」


が部屋に戻っていく足音を聞いて、いざ勝負!とばかりに包丁を握り締めネギを刻んだ
一度やってしまえばそれを繰り返すのはたやすいことで、順当にネギを刻んでいると、


「ねーねー、お兄ちゃん」
「どわっ!…………
「…だって部屋、誰もいないんだもん」
「……」


熱のせいか半泣きの妹を見て、やはりキツいことなど言える訳はない


「…ここにいていいから、ソファに座って大人しくしてろよ」
「うん!」
「あーそうそう、テニス部の奴らがお見舞いとかくれたから、見てみろよ
そこの机の上だ」
「ほんと!?」


今度こそ、は戻ってくる気配を見せなかった
宍戸は戸惑いながらも料理を再開した















、出来たぜ…って、寝てる…」


待ちくたびれたのか、疲れたのか、はソファで眠っていた
忍足に貰ったリボンが開け放たれた窓から吹いてくる風にたなびいて、
腕には樺地特製テディベアがしっかりと抱かれていた
その他にも飴やらぬれおかきやらお菓子が机の上に広げてある

あどけない寝顔
毎日見ているのに、まじまじと見入ってしまった
うんと小さいころから、一緒にいて、
いつも自分の後ろをついてきた
初めて自分をたどたどしくお兄ちゃんと呼ばれた日をふと思い出す

そんな彼女も、いつか女になるんだろうか
愛する人を見つけ、愛される人を見つけ、やがて自分の手から離れていくのか
それは、考えただけでも嬉しくて、寂しいことだった



「…よく寝るやつ」



ふっと笑って柔らかい頬をつつくと小さく自分を呼ぶ声が聞こえた

を守ってくれる男が現れるまでは、自分の妹でいてほしいと、切に願うのは、
妹バカだろうか


「ったく、手のかかる妹だぜ」
























あとがき
大変長らくお待たせいたしました!美雪さん(汗)
美雪さんの好きな宍戸お兄ちゃんになってますでしょうか?かなり長くなりましたが…。
いつも私への、そして宍戸妹への応援メッセージありがとうございますv
そして今回は素敵なキリリクありがとうございました!
お持ち帰りは自由です。お好きに加工してくださって構いません。
それでは、これからも仲良くしてくださいませね

2007.05.30(wed) 管理人:珂葉百合