戦前と戦後は、女官の働き時だと思う
戦前は何かと物が入りようで、眠る間さえない
戦後は怪我した兵士たちの世話から、宴の準備などで目が回る
「まったく、戦、戦って戦のどこがいいのかしらね」
女は、戦を知らない
命を奪う瞬間を味わったことがない
血の匂いを知らない
だからこそ、こんな身勝手な発言が出来るのかもしれない
でも、女にとって戦とは醜いもの
大切な人を、奪っていく、醜くて汚いもの
「小十郎様」
今回も、かなり無理をしていたと聞いた
それに、生臭い血の匂いと汗が混じったような匂いでわかる
せっかくの男らしい腕も無骨な手当ての痕で痛々しく、
整った顔立ちも、疲労の影がちらほらみえた
それでも、大勝したことが嬉しいのか、主を護りきったことが嬉しいのか、
顔は晴れ晴れとしていた
「…これだから殿方は困ります。ご無理はなさらないで下さいと申し上げても必ず裏切りますものね」
懐から手ぬぐいを出して、桶に張った水につけた
余計な水分を絞って、顔の汚れを拭いていく
大人しくされるがままになっている状態を見て、少しは反省しているのかと思った
「政宗様は、かすり傷ひとつなかったそうですわね」
「それは、最高の誉め言葉だな」
「誉めておりません」
「俺の使命は政宗様をお護りすること。あの御方の楯になることだ」
「残されたものの身にもなってくださいませ」
一通り手当てを終えて、ほっと息をつけば大きな手のひらで頭を撫でられた
何だか自分の言っていることが子供のわがままのように思えて、
それをあやされているような気がしてきた
「女って奴ァ不憫なもんだな」
「は?」
力強く引き寄せられ、
ぼすっと胸に顔をうずめるような態勢になって、呼吸がしにくくなった
なるべく酸素を肺に送ろうと深く息を吸えば、懐かしい、愛しい人の匂いがする
「死ぬかもしれないといわれる場所に発つ男どもを見送り、
たまたま運良く生き残ったやつらを良かった、と喜ぶ。
それだけの人生だ」
「あら、女を馬鹿にしてらっしゃるのですか?」
「いーや。哀れに思ってるだけだ」
「そう…でも、小十郎様と私は違いますわ」
ふっと腕の力が弱くなったのをきっかけに顔を上げた
「小十郎様は、約束してくださいましたわ。
命を賭けた戦から無事に戻ってきたときは、ずっと私の傍にいると。
そして、私は疲れたあなたを癒す存在になると約束しました」
しばらく固まって、ふっと笑った
そうだな、と小さく呟く
「それに…お前には俺がいないと駄目だしな」
「それは、小十郎もでしょ…」
遠くにいた人の気配も無くなって、ようやく二人の世界が訪れる
武将と、女官
ましてや片倉家の者
身分違いの恋なんて、絵物語のようだが実際問題は切なく、いろいろと面倒くさい
それでも、
今この瞬間だけは
頭のてっぺんから足の先まで
あなたのことだけを考えていたい
いつか何かが二人を分かつまで