私の中にもう一人の私がいるとしたらそれはまずこう声を上げるだろう
                裏切り者、と

                けれど裏切り者でも構わない、などと思ってしまう自分がいることも確か
                月と太陽のように相反するものの光に惹かれて、手を伸ばしてはひっこめる
                そんな毎日を繰り返して、そろそろ嫌になってきた

                …何て、詩人めいたことを言えるようになっちゃったんだな、コレが





      素直な良い子の作り方.4





                「あ、いるいる…」

                『在室中』と書かれた札が下っている保健室にたどりついた
                ふと下を見れば上履きが三人分並べてある
                よく耳をすませば途切れ途切れの会話が聞こえてきた


                「なんとなく、嫌な予感がするなァ…」


                そう呟きながらそっと扉の隙間から中を覗いた
                案の定、そこには謎の集団SOSの幹部が集まっていた


                「ンなこと出来るんですかィ?」
                「ククッ…あんまり俺を見くびるんじゃねぇぞ、沖田。俺が話つけといてやらァ」
                「さっすが先生!わかってますね!」
                「いや、それわかっちゃいけないとこでしょ!?
                 っつーか、普通そこで止めるんじゃないんですか!?」
                「海野郎は黙ってなァ」


                ぐにっと総悟が海さんのほっぺたをつねった
                痛い痛いと叫ぶ海さんににやりとSな笑みを浮かべる総悟


                「ちょっと、海さんいじめていいのは私だけだかんね!」
                「ほぉ…そうかィ。ならは返してもらいましょーかィ?」
                「それは無理」
                「ちっ…欲の強い女でィ」
                「何だァ?は俺のモンだぞ、俺に許可とったのかァ?」
                「「「…は?」」」


                総悟、、海さんの声が重なる
                先生を合わせて四人も人間がいるのに、室内は水を打ったように静かになった


                「ちょっ、それどういうことっスかぁ!?ちゃん、先生と付き合ってんのォォ!?」
                「声がデケェぞ海野郎」
                「だからそのあだな定着させないでくださいよ!!」


                聞き返したいのはこっちの方だ
                私は先生とある約束は結んでいるものの、
                付き合うといった覚えはないし、第一先生には彼女が何人もいる
                何か策があるのだろう、と様子を見る場ただ単に自慢してみたかっただけっぽい態度に
                ため息を漏らした


                (完全にガキだ、こいつ…)


                私を独占したいがために子どもじみたことを言う、というのは少々嬉しいものだが、
                大の大人にここまで堂々とやられると妙にしけてくる

                「先生、いますか?」

                これ以上は任せられない
                そう踏んで、何事も聞いていなかったよう装いながら扉を開けた


                「ククッ、噂をすれば何とやら、だなァ?」
                「ちゃん!この人ものっそいドSだよ!いいの!?こんなんで…!?
                 というか沖…っ」

                の肘鉄がヒットする
                倒れこむ海さんににこりと笑いかけるを見ていると助かったのか何なのかよくわからなくなってくる

                「俺が、何でィ?」
                「知らないよ?沖から始まる単語なんて無数にあるでしょ?」
                「……、まァいーや。、何しに来たんでィ?」


                訝しげな視線でこちらを見る総悟
                この目で見られると、つい生意気な態度に出てしまう


                「別に。心の病気」


                ふいっと視線を外して先生の傍に行く
                仲を否定しに来たはずなのに、腕を広げてくる先生に普通に抱きついてしまった
                あまりにも素直な私の態度に先生も驚いたのか、ぴくりと肩を振るわせる
                けれどその動きはあまりにも微動すぎて私にしかわからなかった


                「オラ、邪魔立てすんじゃねーよ。同好会には明日出てやるからテメェら帰れや」


                海さんを引きずっていくと少しだけ目が合った
                ほんの少し苦笑をうかべた彼女に申し訳なさそうに頭を振る
                それもだけど、信じられない、と憂いに満ちた目で見てくる海さんの視線が辛くて、
                先生の煙草くさい胸に顔をうずめた


                「沖田、テメェもだ」
                「俺ァ、と帰れって親から言われてんですがねィ。なァ、
                「………」


                そのことは先生にもとっくの昔に話してる
                だからてっきり私と一緒に追い出されるのかも、なんて思っていたのに、
                先生は総悟だけを追い払おうとしている
                私の気持ちを読んでくれているのだ
                何だかんだいっても、そこは大人の余裕の魅力といえるだろう


                「お前とは帰りたくねーってさ」
                「先生、私何にも…!」
                「が帰りたくなくても俺ァそうしてェんだ。だから連れて帰りやす」
                「ククッ…お前はコイツの意思お構い無しか?」
                「俺のポリシーなんでね。それこそ先生が口を挟むとこじゃねーでしょう。文句があるみてぇですがねィ」
                「いや、文句は無ェ。俺もそういうタイプだ」


                背を向けていて解らないが、総悟は怒っている
                しかも相当怒っている
                不機嫌そうな顔が目に浮かぶようだった


                「先生、私帰る」
                「いいのかァ?何なら俺が家まで送ってやるぜ?」
                「いいの。ごめんね、総悟。帰ろ?」










                「あの男は、の何なんでィ」
                「…なんでそんなこと聞くの?」
                「知りたいからでさァ」


                帰り道
                お互いに決して言葉を交わすことなく、私の家の前まで来てしまった
                玄関へ入ろうとすると、総悟も入ってきた
                一瞬躊躇したがいまさら、と部屋へついてくる総悟を止めなかったのは事実
                何か聞かれるだろうと予想はしていたが、ここにきてこんな質問か
                本当に、私の気持ちをわかってやっているのか、と問いただしたくなってくる


                「…どんな風に、見えた?」
                「質問に質問で返すのは感心できねーな」
                「大きなお世話よ。恋人に…見えた?」
                「………いや」


                ここでうんとでも頷いてくれれば少しは気分が晴れたのに
                自分の世界から総悟を追い出すきっかけになったかもしれないのに
                でも、それも無理かもしれない
                幼馴染、という枠は隣の家に住む限り外れることはないのだから


                「は、本気で高杉が好きなんですかィ?」
                「それを知ってどうするのよ」
                「止めやす」


                目が点になる
                確かに高杉先生は女性との噂話が耐えない
                おそらく総悟の耳にも入っているんだろう
                けれど、『止める』だなんて、そんな権限ははっきり言って総悟にはない
                幼馴染だから心配、なんてフレーズは総悟が一番嫌ってることだ

                そんな私の思いを見透かしてか、総悟が口を開いた


                「俺らしくねぇ、とか思ってんでしょう?」
                「………うん」
                「知りてぇかィ?」
                「…うん」
                「じゃ、」


                ゆっくりと総悟が近づいてきた
                鼻と鼻がくっつくような至近距離にまで近づかれて、鼓動が自然と速まる

                あ、キスするんだ
                そう思ったときにはすでに遅く、身をよじって避けられたはずなのに素直に受け入れていた


                「好きでさァ」
                「…嘘」
                「ここで嘘いってどうすんでィ」


                ぎゅっと優しく抱きしめられる
                こんなに総悟を身近に感じられたのは本当に数年ぶりかもしれない
                がっしりとした腕に抱きすくめられて、身動きがひとつもとれなかった


                「も、俺のこと好きだろィ?」
                「…わ、かんないの…」


                総悟が好き
                けれど高杉先生も好きだ

                それは確か

                振り向いてくれない総悟にずっと淡い恋心を抱いていた
                いつも優しく受け入れてくれて、振り払っても追いついてくれる先生に憧れの恋心を抱いていた

                どちらも、真実
                どちらかが偽りだなんて思いたくないくらい、大切な真実


                「…まぁ、それはうすうす感づいてやした」
                「え!?」
                「だから、解決策も練ってまさァ」


                腕の力が緩んで、顔を上げれば得意げな総悟の瞳と視線がぶつかる


                「一ヶ月間、恋人になりやしょう」


                そのとんでもない提案に、私の大声が家中に響き渡った


                「はぁ!?」











             アトガキ

                 とりあえず、ね
                 高杉先生のようで、沖田の話になりました
                 次は高杉先生です。