一通の手紙が届いた
綺麗な便箋にほんのり香る上品な香り
いつかは来ると思っていた
それでも、心のどこかでは来ないことを望んでいたのかもしれない
結婚式場への招待状
ぱさ、と音をたてて便箋が落ちた
めがねを外して軽くため息を吐く
一度は、諦めたものだったのに
彼女が、幸せならばそれでいい…と
MARRIAGE SECTION.2 Student marriage
「よっ、侑士!」
「何や…?岳人かいな…」
「何やって言い方ねぇだろ。お、それ着いたのか。俺んとこにも来たぜ」
「そらそうやろなぁ。岳人だけ来んってのもオモロいけど」
「面白くねーよっ!」
はは、と笑って立ち上がった
長年の付き合いもあって、向日には何故立ち上がったのか解るらしい
俺、コーヒーな!ミルクと砂糖入りで!と言ってきた
「侑士、お前いいのかよ」
「何がや?」
「……、後悔しても知らねーぞ。もう結婚しちまうんだからな、アイツら」
「…わかってるて。そんなこと大分前から解っとったわ…。
今さらやで、岳人」
「…………」
無理して笑う親友の顔に、何も言えなかった
「結婚、おめでとうございます!先輩!」
「ありがとう、長太郎くん。わぁ、綺麗なお花…!」
「おめでとうございます。
(まさか本当に学生結婚するとは…相変わらず派手な人だ…この人たちは…)」
「日吉くん、半分くらい声に出てるよ」
変わらない二人が何だかむしょうに嬉しかった
大学入試で部活は引退していたし、何だかんだで忙しかった
前に会ったのは跡部の誕生日会ぐらい
でもそれも見掛けた程度で跡部の結婚するぞ宣言に落ち着いて話が出来なかった
鳳の爽やかさは健在で、日吉の不器用っぽさは磨きがかかっていた
「お前、まだ大学にも行ってないのに名前変わっちまうのかよ…」
「あ、宍戸。遅かったねー」
鳳、日吉に続いて氷帝学園高等部の制服に身をつつんだ宍戸が現れた
正式な場であることを気にかけてか、ネクタイをきちんと締めている
それでも、慣れないので窮屈そうにしていた
「忍足は?」
「まだ来てないみたい…、がっくんはそこでご飯食べてるけど…」
「ジローは…と、あそこで寝てるやつか」
「うん。眠いから寝るーって言って」
「こんなとこでも寝てんのかよ…、激ダサだな…」
ジローのほうを呆れながら見て、宍戸は慌てて鞄の中を漁った
中から出てきたのは綺麗にラッピングされた一本の薔薇
鞄の中に閉まっていたせい、葉や茎が多少折れていた
「ほら、結婚祝い。悪いな、大したもん贈れなくて…」
「いいのいいの!ここに来てくれただけでも嬉しいもん。
それに、何か宍戸っぽくて良いよ」
「…そうかよ。…っ、それ長太郎か?」
「え?うん」
「…またもや格の違いを見た感じだぜ…」
が腕に抱える花束と宍戸が慌てて買ってきた薔薇は対照的だった
でも、宍戸が大量の花を抱えて歩く姿を想像するのは中々困難だろう
「宍戸らしいよ」
「…誉めてんのか?」
「一応ね」
「一応かよ」
ふふ、と笑う彼女の姿は中学の時より少し大人びていた
部活仲間から跡部の女として見るようになったのは、つい最近だったような気がする
話すのも何だかこっぱずかしい時や、妙に緊張した時もあった
それでも、中学1年からの付き合いは、大きかった
「忍足、来ねーかもな」
「そうですね…」
「でも忍足だよ〜。俺らの中で一番大人なの、忍足だC−」
「意地張って来ないって言うのは想像つきませんね」
教会での式のときにも来ていなかった
披露宴の会場にて氷帝陣は集まっていた
「すまん、遅れたわ…。親父の仕事手伝っとったら長引いてもうた」
「侑士!」
「何や…、化けモンでも来たような顔して…。ちゃんらはどこや?」
「あ、あぁ…。二人ならあっちに…」
すまんな、と笑って忍足は歩いていった
残ったものたちは押し黙ってその様子を見ていた
「あ、おっしー!」
「やっと来やがったか」
「悪いな…ちょっと出先で…。
ちゃん、めっちゃ綺麗やで」
「ありがとう…///おっしーにそう言ってもらえるのが一番嬉しい」
は、跡部の腕に回していた腕をそっと抜いて忍足の傍に行った
彼女にとって忍足は、ただの部活仲間なんかじゃない
「思えば、おっしーのお陰でこうして跡部とゴールインできたと思うの。
本当に…ありがとう、おっしー」
「おめでとう…楽しい人生送りや」
「うん…っ」
笑顔でそう言って、彼女は去って行った
一番手に入れたくて、でも手に入れたくなかった存在
「跡部…、泣かせたら承知せぇへんで?」
「わかってる。あいつもどうせお前のことなんかすぐには切り捨てられねぇと思うぜ
あいつにとってお前は、最高の相談相手、らしいからな」
むすっとした表情で言う跡部
自分には無い男らしさをが忍足に見出し誉めているため面白くないらしい
「そら、嬉しいかぎりやな」
跡部家の結婚式は盛大に開かれ、そして終わった
引き出物も大きなクリスタル一個、とすさまじいもので宍戸は再び格の違いを認めざるをえなかった
綺麗な衣装を着るだけその分疲労はすさまじい
は、帰りの車の中ですぐに眠ってしまっていた
「とっとと寝やがって…。ムードの欠片もねぇやつ…」
ふっ、と笑って髪を撫でてやればくすぐったそうに身をよじった
左手の薬指にある指輪が光をうけて光るたびに幸福感がよぎった
「絶対に幸せにならねぇとな」
耳元でそう言ってを抱き寄せた
君という存在を作り上げた人たちに感謝
それはもちろん、自分の旧友でもある忍足もだ
ただ、ずっと独り占めにしたかった女を自分だけのものに出来たことに喜びを隠せない
その感情は、旧友の忍足への気遣いなどひとつもない
傲慢さと、我侭と、薄汚く思える感情
それでも、1人の女に狂った男の気持ちは、あいつもわかってくれるだろう
押し寄せる疲労に、旧友を裏切ったような罪悪感に、跡部は目をつむった
あとがき
ちょっと悲恋もの。
複雑のは何もあなただけじゃないんですよ?
ヒロインが、1話で複雑…って嬉しそうに零してましたが、それにかけてみました。
幸せな複雑なら良いですが、あなたが幸せな分だけもっと複雑な思いが近くにある、というお話です。
本来は、おっしーだけにしとこうと思ったんですが、跡部とおっしーはなんだかんだいって、
仲良さそうだし、跡部はインサイトがありますから(笑)わかるだろーと思って最後だけ跡部の心情も入れてみました。
帝王との結婚生活は基本的にはパロディ(特に子供編が)ですが、結婚ネタ編は、側面とか裏事情とかも入れていくつもりです。
でも、基本は帝王とヒロインの甘々結婚生活…かな?