病気の時ってなんだか微妙に寂しい気持ちになる。

一人ぼっちで寝ていると、なおさら寂しい。
ついて、ないなって。
思えて仕方ない。


この両手いっぱいの、愛情を

「38度か…。」

寝転んだまま、体温計の表示を眺めてため息をつく。
昨夜から出た熱は、薬を飲んでも中々下がってくれないみたい。
今日は水曜日。
部活が休みだから、友達と学校帰りに買い物に行くつもりだったのに。

ついてない。

落ち込みながら、ウトウトと夢と現実の間を漂う。
熱があるから、体が宙に浮いたみたいな。
変な、感じ。

どれぐらい寝てたかな。
確か熱を測ったのが、1時過ぎだったっけ。
そんな事を考えてたら、ドアをノックする音が聞こえた。
お母さんかな?

「はい〜?」
「こんにちは。あ、やっぱり体。ダルそうですね。」
「お、鳳君!?」
「先輩、風邪ひいたって聞いて。すみません、体調悪いのに…。」

ドアの向こうから顔を覗かせるのはお母さんではなく、後輩の鳳君だった。
びっくりして思わず起き上がる。
「あの…、今日は一体…。」
「お見舞いです。先輩の事、心配だったし。」
「え。あ、ありが…。」
その時、私の声を遮るようにして鳳君の後ろから怒ったような声がした。
「おい、長太郎!いつまで突っ立ってんだよ!」
「え、え?宍戸君?」
「あ、すいません。宍戸さん。」
「全く…。は風邪ひいてんだろうが。いつまで起こしとく気だよ。」
「え。あ、先輩すいません!遠慮しないで、横になってください!」
「何やってんだ、馬鹿。」
すると、鳳君の後ろから割り込むようにして宍戸君が顔を出すと、
「おす。」
と、少し照れくさそうに挨拶した。

「ありがとう。わざわざお見舞いに来てくれるなんて思わなかった。」
「今日は部活休みだしよ。長太郎がうるせぇんだよ。」
「俺だけじゃないじゃないですか。宍戸さんだって、朝から心配そうにしてたくせに…。」
「う、うるせぇな。おい、それよりアレ。出さねぇのか。」
「あ、そうですね。あの、先輩。これ…。」
そう言って、鳳君が鞄から小さな袋を2つ出した。
「これは?」
「この近くに神社がありますよね。そこでお参りしてきたんです。先輩が早く治りますようにって。」
「え…。」
「お守り売ってたから、買ってきました。はいどうぞ。」
手渡されたお守りはピンクと赤の可愛らしい物で、近所の神社の名前が刺繍してあった。
私なんかのためにわざわざ行ってくれたのかと思うと、なんだか申し訳なく感じる。
「ありがとう、すごく嬉しい。でも、なんで2つあるの?」
お礼を言いながらも少し疑問に思った事を聞いてみたら、二人は顔を見合わせて苦笑していた。

「俺は先輩には絶対ピンクの方がいいって言ったんですけど…。」
「俺は、赤い方がいいと思ったんだよ。」

どうやら、どっちのお守りを買うかでもめた結果、両方買ったみたい。
神社でどの色がいいかでもめてる所を想像したら、ちょっとおかしかった。
私が笑った事に気づいた鳳君が、少し拗ねたような言い方をする。
「あ、先輩。笑わないでくださいよ、恥ずかしかったんですから。」
「ごめん。でも、なんかちょっとおかしかったから…。」
謝りながら何の気なしにお守りをひっくり返した瞬間、唖然としてしまった。
「先輩?どうかしましたか?」
「え?あ、うん…。」
「あ、分かった。やっぱピンクは気に入らなかったんだろ。」
「えっ!」
鳳君が悲しそうな顔をしたので、言うかどうか迷ったが。
やはり、言った方がいいかなと思い、思いきって話してみた。

「あの…。これ、安産って刺繍してある…。」

「えっ。」
「ぶっ!マジかよ。だからピンクはやめとけって言ったんだ!」
宍戸君がさもおかしそうに笑っていたのだが、
「でも、こっちの赤いのには交通安全って…。」
私がそう言ったら、今度は鳳君が噴出していた。

結局、どっちのお守りも的ハズレもいいトコだったんだけど。
それでも、二人の気遣いがすごく嬉しかった。
しばらく喋っていたけど、体に障るからと二人は帰って行った。
帰り際、
先輩、早くよくなってくださいね。」
「ゆっくり休んで、早く治せよ。」
と、二人が言ってくれたのが嬉しかった。

病気になって、少し得しちゃった。なんて。
罰当たりかな?

二人が帰ってしばらくした後、再びノック音が聞こえた。
「はい?」
「こんにちは。あ、なんや。思ったよりも元気そうで安心したわ。」
「忍足君!」
「おーっす!おー、なんだ元気そうじゃん。」
「あ〜本当だ〜。」
「すみません、大勢で押しかけて…。」
次から次へと入れ替わり立ち代り、テニス部の皆が顔を覗かせる。
びっくりする私を尻目に、部屋の中に入ってきたんだけど。
さすがに男の子が4人も部屋にいると、狭く感じるなぁ…。

「あ、あの…。ごめんね、狭くって…。」
「いや?俺らが大勢で押しかけたんやから、気にせんでええよ。」
「おお、俺の部屋の方が狭いぞ。」
「岳人の部屋は、散らかってるから狭いんやろ。」
「何を!くそくそ侑士。何もの前でバラす事ねぇだろ!」
「ね〜ちゃん、もう大丈夫?俺ね、今日すごく寂しかった〜。」
「え?そ、そう?」
「うん。明日は来れる?」
「今日中に熱が下がれば、行けるかな。」
「だったら、おまじないしたげる。ほ〜ら、よくなれよくなれ〜。」
そう言って、ジロー君が私の頭を撫でた。
そして、
ちゃんを苛める悪い風邪なんか、飛んでっちゃえ〜。」
と。
向日君の頭に、ぽんと手を乗せた。

「おい、ジロー!そりゃ、俺にうつればいいって事か!」
「そーだよ。これで、ちゃん元気になるC〜。」
「俺はどーなってもいいんかよ!」
「安心せぇ岳人。昔から、馬鹿は風邪ひかんて言うやろ。」
「くそくそ!皆で馬鹿にしやがって!」
向日君は頬を膨らませて怒っていたけど、
「あ、そ〜だ!俺が風邪ひいたら、にお見舞い来てもらうからな。約束だぞ〜。」
と、急にニコニコした。
くるくると表情の変わる元気な向日君を見ていたら、なんだかこっちまで元気になるみたい。

「何言ってるんですか。この時期に体調なんか崩されたら俺が困るんですよ。向日さんはただでさえ
 自己管理が出来ないんですから。せめて、風邪引かない程度には気をつけてください。」

皆の後ろに控えめに座ってた日吉君が、眉間に皺を寄せている。
「あ、そうだよね。大会前の大事な時に…。ごめん。」
慌てて私が謝ると、日吉君が申し訳なさそうな顔をした。
「あ、いえ…別に先輩が悪い訳じゃ…。」
「ううん。私だってマネージャーなのに、こんな時期に風邪引くなんてね。 
 この間、監督から自己管理の話されたばっかりなのに。これじゃ、マネ失格だよ。」
私が少し自嘲気味にそう言うと、日吉君が
「そんな事ありません!」
と、強く反発したが、すぐにいつものような冷静な言い方で諭されてしまった。
「あ、いえ…。誰でも、調子の悪い時があると思いますから。」
「そ、そうかな…。」
「そうですよ。だから、そんな事心配してないで体治すほうに専念してください。」
そう言うと、日吉君は微かに笑っていた。
普段あまり感情を表に出さない彼のそんな表情はちょっと意外で。
少しだけ、照れくさかった。


「ほな俺ら、そろそろ帰るし。ゆっくり休むんやで?」
「ちゃんと寝てろよ。」
ちゃん、早く治してね。」
そろそろ6時も近いからか、皆が立ち上がった。
「あ、うん。あの、わざわざありがとう。」
私がそうお礼を言うと、
「こちらこそ、こんな大勢ですみませんでした。あの…。さっき言った事、気にしないでください。」
日吉君がそう言って、軽く頭を下げて行った。

皆が帰った後の部屋は、変にがらんとしているみたいに見えた。
あんなに人が大勢来たのは初めてだったけど、すごく楽しかったな。
ずっと一人で寝てたから、本当はちょっと寂しかったんだ。
でも…。
寝転んで天井を眺めながら、少し気になった事を考える。

跡部君は、来てくれないのかな…。

まさかテニス部の皆が来てくれるなんて思いも寄らなかったけれど。
跡部君も来てくれたら、もっと嬉しいだろうな。
でも、彼はすごく忙しい人だから。
今日だって部活は休みだけど、きっと部室で書類とかの処理をしてるだろうし。
テニス部の仕事がなくたって、生徒会長だからそっちが何かあるかもしれない。
ふと時計を見たら、もうすぐ6時半。
いくらなんでも、こんな時間に来てくれるとは思えない。
仕方ないよね。

寂しいとは思ったけど。
それはちょっと図々しいと思えて、なんだか恥ずかしくなった。
その時、部屋のノックする音が聞こえた。
え、まさか…。
ちょっとドキドキしながら「はい?」と返事をしたら。
静かに開いたドアの向こうから現れたのは、お母さんだった。
「あ…お母さん。」
「熱はどう?大勢お友達が来てたけど、大丈夫?」
「え?あ、あぁ…。うん、平気みたい。」
「そう?なら、いいけど。」
なんだぁ。やっぱ、そんなにうまくはいかないよね。
そんな事を考えてたら、お母さんが大きな花束を部屋の中に持ってきた。
「うわ、どうしたの?それ…。」
「さっき樺地君とかいう大きな子が持ってきたわよ?」
「えっ!樺地君が!?」
「ええ。誰だかの代理ですがって言ってたけど。」

跡部君だ。
きっと、跡部君が樺地君に頼んだんだ。

「そっか。明日、学校行けたらお礼言っておく。」
「そうしなさい。お花、ここに飾っておこうか?」
「うん。」

そう返事をしたら、お母さんが花瓶に入るだけの薔薇をもってきてくれた。
真赤な薔薇は落ち着いた色合いで、絨毯みたいに柔らかそう。
跡部君が気にしてくれたんだと思ったら、すごく嬉しい。
早く風邪、治そうっと。明日、学校に行けますように。
薬を飲むと、布団を引張り揚げる。
いっぱい寝たら、早く治るかなぁ。

「…ん。」
ふと、目が覚めた。
今、何時だろう。すごくいっぱい寝たような、そうでないような。
あれ…?誰か…いる?
しばらく焦点が定まらず、ぼんやりとしていたら。
「目が覚めたか?」
と。
少し低いけどよく通る、聞き慣れた声がした。

「え…?あ、跡部君!?」

一気に目が覚めて、思わず跳ね起きる。
そんな私の様子を驚いた顔で見ていたが、すぐに、
「それだけ元気なら、明日は学校に来れるな?」
と。
優しい顔で、微笑んだ。

「あ、あの…。えと…。」
「悪かったな、勝手に部屋に上がりこんで。」
「あ、いいの…。気にしないで。」
「すぐに帰ろうと思ったんだけどな。」
「え?ひょっとして、長い事待たせてた?」
「そうでもない、10分ぐらいか。」
「えっ!ご、ごめん!」
「構わねぇよ。中々可愛い寝顔だった。」
そう言いながら、いつもように不敵な顔でニヤッと笑う。
思わず、顔が熱くなった。

「もう…。跡部君たら、からかわないでよ…。」
顔、赤くないかな…。
恥ずかしさからつい、俯いてしまう。
すると、急に沈んだ声で跡部君がぽつんと呟いた。

「皆、来たのか?」
「え?」
「部の奴ら。もう、皆来たのか?」
「あ、あぁ…。うん、夕方頃に…。」
「…そうか。悪かったな、遅くなって。」
「あ、そんなの気にしないで。跡部君は忙しいから。来てくれただけでも嬉しいよ。」
そう答えたら、少しだけ安心したように笑ってくれた。

「樺地に持たせた花はあれか?」

ふと机の上の花瓶に気づいた跡部君が、そんな風に聞いてきた。

「あ、うん。すごくキレイな薔薇だった。ありがとう。」
「たいした花じゃない。本当ならもっと別の花を選ぶつもりだったんだが…ん?なんだこれは。」
そう言って、机に近寄る。
「お守り?誰だ、こんなのよこした奴は。」
呆れた顔でお守りを手に取り、私に聞く。
「あぁ、それ鳳君と宍戸君。近くに神社があるんだけど、そこで買ってきてくれたみたい。」
「いかにもあいつららしいが…。おい、これ。」
何気なしにひっくり返した跡部君が、裏に刺繍してある文字を見て驚いていた。
「それでしょ。私も指摘したらまずいかなって思ったんだけど…。」
私が困った顔をするのを見て、ぷっと吹き出しながら
「いかにも、あの二人らしいミスだな。」
と。
おかしそうに言った。

「でも、その心遣いが嬉しいから。忍足君達も、お菓子とかいっぱいくれたの。嬉しかったよ。」
その時、少しだけ跡部君がむっとした顔になった。
「どうせ俺様は樺地任せだったしな。」
「えっ。そうゆう意味じゃ…。」
「来るのは遅いわ、見舞い品は人任せだわ。どうしようもねぇな。」
「そんな事ないよ!あ、あの…。」
跡部君が、急に拗ねたようにそんな事を言い出す。
私はどうしていいのかが分からず、ただオロオロするだけ。
すると、そんな私の様子を見ながら微かに笑い、そっと両手で頬を挟んだ。
そして、ゆっくりと顔を近付ける。
鼻の頭が触れるほどの距離。少し喋れば、唇をかすりそう。

「その代わり、俺様にしか渡せない物を持ってきたぜ。」

少し低くて、よく通る。でも、いつもよりうんと優しい響きを帯びたその声が。
私に、ゆっくりと囁きかける。

「俺様の中にある『愛しい』という気持ちを、全てお前にやる。それで、許してくれるか?」

それだけ言うと、跡部君が少し顔を傾けた。
おでこをくっつけたら、鼻の頭がふんわりと触れる。
そして。
柔らかな感触が、唇に残った。

病気の時は、なんだか微妙に寂しくなってついてないって思ってたけど。
これからは、もう。
そんな風に、思う事もなくなるかもね。
だって彼は、この両手に抱えきれないほどの愛情をくれたから。
もう、寂しくなんかない。


<終>

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遅くなりましたが、リクエストでいただきました逆ハーテイスト(跡部)でした。
処理前の物になりますので、さんのお好きに加工してくださいませv
このたびは相互にしてくださり、ありがとうございました。
今後とも、よろしくお願いします。

                             白澤

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私のわがままリクを見事仕上げてくださいました!
もう何回も読み直しております、お気に入りの一品です。
相互、こちらこそよろしくお願い致します。
また遊びに行きますねv

                 珂葉