梅雨夢企画
               テニスの王子様 〜忍足 侑士〜


















               いきなり耳に響いてきたチャイムの音を聞いて、はやっと顔を上げた
               ずっと下を向いて、英語のノートと教科書を見つめていたせいか、首が痛い

               ふと時計に目を見やると針は思いもよらない時間まで進んでいた

               「やっば!帰らなきゃ」

               手際よく机の上のノートを鞄に詰め込むと教室を出て鍵を締めた
               毎日放課後、はこうして担任に頼み込んで教室で勉強させてもらっている
               家は幼い妹たちがいて、とてもじゃないが集中できないのだ
               クラス1の頭脳と称されていても実際はこの様
               こっそりと誰もいない教室で勉強している
               何だかそれが恥ずかしく思えて、皆が帰ってから勉強することにしたのだ


               玄関の扉をくぐると顔に冷たいものが降りかかった
               顔を上げるまでもなく雨だと認識したが、構わずそのまま歩き続けた
               そろそろ小学生の弟が友達の家から帰ってくる
               それまでに家に帰って夕飯の支度をしなければならない

 

               は足早に校門もくぐった

               「そこの美人なお姉さん。俺の傘で良かったら入っていけへん?」
               「・・・・・・忍足くん」

               顔を上げたそこにはクラスメイトの忍足侑士が立っていた
               差し出すようにして自身の傘をさしている

               彼とは何故かよく席が隣になって、最近では少しずつ会話が続くようになってきた
               クラスの女子にものすごい人気を集めている気さくな関西弁の男の子

 

 

               の中で忍足はそういう存在であった


               「何、してるの?」
               「うわっ、それめっちゃ酷いお言葉」

               は雨に濡れた髪を右手で触りながら聞いた
               その小さなの癖を忍足が満面の笑みを浮かべながら見ている

               「傘、無いんやろ?今更言うのもなんやけど、入ってったほうがマシやで?」
               「え、でも・・・」

               は躊躇した
               ファンクラブまである忍足の傘に入るなんて自殺行為じゃないだろうか
               そんなことをすれば明日には自分を見るクラスの女子の目は一気に反転する

               「やっぱり良いわ・・・」
               「そう言わんと。入って」

               引き寄せられた腕の力が思ったよりも強くて、改めて男の子なんだと実感した
               強引に彼の傘に入れられながらは明日には終わりだな、と再度思いをめぐらせた

               「好きな女を、雨にさらした状態で他の男に見せたぁない」
               「・・・は?」

               突然聞こえてきた言葉に思わず目が丸くなった

               今、何て仰いました・・・?
               私を、忍足くんが好き・・・?


               「何や、自分。やっぱり気づいてなかったんかいな」
               「き、気づいてって・・・、そ、そうだったの!?」
               「せやで。」

               は先日クラスの男子が話していたことを思い出した


               『でもよ、忍足って毎回女とっかえひっかえだよなぁ・・・』
               『執着せずに良いお付き合い、らしいぜ。アイツらしいよな』
               『言えてる!上手いこと世の中渡ってそうだしなぁ・・・』


               「それ、新しい冗談?」
               「めっちゃ本気」

               今まで忍足が笑った顔を何回も見たことがあるが、ここまで間近で見たことは一度もなかった
               故に、は再び思考能力を停止させられた

               「ね、1つ聞いてもいい?」
               「何でもどうぞ」
               「忍足くんって割り切った男女のお付き合いが好きなのよね。
                私が知ってるかぎりでもそういう大人の女の子とお付き合いしてたし。
                つまり、何で私なの?」

               鼻息荒く、自分を指差して問うと忍足は笑顔の表情を一切乱さずに口を開いた

               「俺が始めて本気になった子やから」
               「い、意味が・・・」
               「知らん?ようあるやん。
                今まで軽かった男がようやく真面目に恋をした。
                しかも今までと全然違うタイプやった。
                俺を変えたのは彼女やって設定」

                忍足は逃げ腰のを自分のほうに引き寄せ、雨に濡れないようにした
                は忍足が遠ざかることを意識するあまり、傘から半分も体が出ていたのだ

                「つまり、俺は本気でさんが好きやねん」
                「嘘・・・」
                「・・・中々疑い深い子やなぁ」

               困ったとばかりにため息をついた忍足を見ていると
               はひとつのことを理解した

               忍足の整った顔が少しずつ自分に近づいてくる
               鼻がくっつきそうな程に近くなったとき、は止めようと言葉を発した
               が、その言葉も忍足の唇にのまれていった

               「・・・これでどないや?」
               「なっ・・・に、やって・・・!」


               初めてのことに
               忍足としたことに
               学校のすぐ近くでしたことに
               傘1つの下でしたことに

               の頬が熱くなった
               それは初めてが味わった感覚

               ふわり、と体が雲の上にのっているような気持ちよさ


               「ま、ちょっとずつでもえーから、俺のこと知って?
                ちゃんが俺を好きになるよう最大限の愛情を持って接するから」
               「やることと実際のことと順序が違うんじゃない?」
               「えーの。とりあえず、今日はこのまま送ってくな?」

               は、全くついていけない、とため息をつくと大人しく忍足の手に自身の手を握られた
               そこから伝わってくる彼の心臓の速さが妙に嬉しくて、一人微笑んだ






          ☆あとがき
          おっしーは結構テンポよく書けて楽しかったですよ〜。
          ちなみにこのヒロインちゃんは頭が良い設定で書いていたんですが
          学年1はやっぱり跡部だし、彼女とどっちが頭良いんだろう、と思いました。
          何を書いてても跡部が出てくる自分の心が憎い毎日です…!(笑)