梅雨夢企画
テニスの王子様 〜幸村 精市〜
静かな病室には時折本をめくる音しか聞こえない
曇った空は薄暗く、病室の窓から見てとれた
幸村はゆっくりとため息をついてドアを見つめた
「……、まだ来ないね」
開くことのない扉を見つめてまた一つため息をつく
すでに読んでいる本の内容には入り込めなくなって本を閉じた
ふと窓を見ると雨粒が窓にはりついていた
心なしか遠くの方から雷雲の音も聞こえる
「もう梅雨の時期なんだね。もしかしてどこかで雨宿りしてるのかな…」
一度手放した本をもう一度手にとるのにも気がひけて
幸村は窓の傍の一輪挿しに飾ってある紫陽花の花を見つめた
それは、三日前に立海のテニス部員たちが持ってきてくれたものだった
彼らは毎週土曜、日曜と必ず顔を出してくれる
それも嬉しいが、幸村には毎日訪れてくれる人がいた
「遅くなってごめんね、精市!」
「本当だね。俺を待たせるなんても中々腕をあげたようだね、フフ」
タイミング良く現れたを見て満面の笑みで迎えてやった
冗談半分のつもりで言ってみただけだけど、にはそれが堪えたらしく、顔をうつむかせた
「ご、ごめんね」
「冗談だよ、俺はが来てくれるだけで十分。
ただ、時間があまりないと俺とも話できないし、遊べないからね…フフ」
「や、やっぱり怒ってるんじゃない」
息をはずませながらがすぐ傍にあった椅子に腰を落ち着かせた
幸村はが思った通りの反応を示して嬉しかったらしく、小さく笑った
「で、俺を待たせた言い訳を聞こうか?」
「気づかなかった?雨が降ってきたのよ」
はいお土産、とは手作りのお菓子を手渡した後、窓を指差した
幸村が再び目を向けると先ほどよりも激しく雨粒が窓を叩きつけていた
「うん、知ってたよ。随分降ってきたね」
「駅からここにくるまでに降ってきたからどこかで雨宿りしようと思ったんだけど…」
突然、は言葉を濁らせた
幸村はいつも通り微笑みながらその様子を見ている
彼女は会話していると時々押し黙るときがある
その時は決まって本人が恥ずかしいと思っている言葉を発する時
幸村はそれをよく知っているのであえて先を促すような言葉を発しなかった
「精市に、少しでも早く会いたかったから…」
かぁ、と赤くなる彼女の頬
幸村は満足げに笑みを浮かべてその頬に触れた
「中々可愛いこと言ってくれるね、嬉しいよ」
「そ、そりゃあ良かったわね…」
やがて幸村の暖かい手に安心したのか、はその手に頬をゆだねた
幸村もそのわずかな行動を感知し、また柔らかく微笑んだ
「雨が止むまでここにいてもいい?」
「もちろん。」
幸村は空いている左手でにおいで、と手招きをした
その言葉に素直に従い、は体を幸村の横たわっている枕もとの近くまで移動させた
丁度後ろから抱きしめられているような感じ
は安心する温度と匂いに身を任せた
幸村はを抱きしめながら横目で窓を見た
すでに止んでしまっている雨を確認して心の中で呟いた
(さて、いつまで騙せるかな?)
そしてまたあの黒いオーラを出しながら暖かな彼女の温もりを抱きしめなおした
☆あとがき
やっぱり幸村さんはこうでなきゃあ!
友人から頂いた素敵な幸村さんを読み直して熱を高め、一気に書いちまいましたよ、ハイ
どこまでも爽やかで、黒い(笑)
幸村さん、大好きです〜。