「私は、家の息女、に御座います。どうか武田信玄様にお目とおりを」
嫁に来ましたッ!
act.2 必然的出会い
二人の兵士に連れられて廊下を移動する
自然と高鳴る胸の音は止められない
なんといっても今から会う相手は、甲斐を治める武田信玄
父が友人なお蔭で、幼い頃から会ったことはあるが、昔会った武田信玄と今の武田信玄は違う
昔とは身分が違いすぎる信玄には少し恐怖感を抱いていた
そして身をひきしめるために歯をくいしばった
「お館様、様をお連れしました」
一人の兵士がそう告げた
は兵士が告げた相手を見つめて、膝をついた
「お久しぶりです、武田信玄様。
の娘、に御座います」
「か、久しいな…」
「はい」
は膝をついて頭をさげているので、信玄の顔を見つめることは出来なかったが
雰囲気というか、信玄のオーラを感じることが出来た
張り詰めた空気、 緊迫した雰囲気が、の身をかたくさせた
す、と信玄のものであろう手が差し出され、の顔を上げさせた
「よ、此の度此方へ呼んだのは知っておろう」
「はい、存じております」
「お前は、良いのか?」
「どういう意味で御座いましょう」
「お前はまだ齢15。 此方へ来れば二度と家には帰れぬぞ」
「お館様のお役に立つことが喜びですわ」
凛とした表情のに信玄は満足したのか、深く頷いた
頷く信玄の表情に、はほっとした
昔と変わっていない、あの穏やかな表情だ
「あれも難しい男だ。苦労はすると思うぞ」
くっと笑う信玄をは小首をかしげて見ていた、その時―――――
「お館様、幸村様が御見えになりました!」
「やっと来たか」
突然のことに驚く、覚悟は出来ていたものの、いざその場面に直面すると躊躇してしまう
「お館様、どうされました?」
「幸村よ、お主への縁談の話、すすめさせてもらったぞ。」
妙に真剣な声色で話す信玄には胸を益々高鳴らせた
膝をついている足も痛いが、下をむいている首はもっと痛いのだ
(チッ、早くしろっての…)
「こちらがお主の婚約者、殿だ」
「えっ、えぇ!?お、お館様!」
信玄の言葉に顔をあげていいのかと思いゆっくりと顔をあげる
目の前に立っている人物に注意深く目を向けると、そこにはよく知った顔
「あっ…」
「そ、そなたは先ほどの…!」
「何だ?もう知り合っておったのか?」
そう、先ほどが会った人物、突然の登場に驚いたが、格好や顔立ちはよく憶えている
赤がメインの服に身をつつんだ青年
「貴方様が、真田幸村様ですか!?」
「先ほどの破廉恥な婦女子が殿とは…」
「破廉恥?」
顔を赤らめて話し出す幸村に信玄は耳をそばだてている
は作法も忘れて、立ち上がった
「はっ破廉恥ですって?わ、私はただ、足に怪我をしていたからみていただけです。
手当をしてくださったからご存知でしょう?」
「そ、それは知っている!だが、年頃の婦女子が、あのような道の真ん中で足を出すのは…」
益々顔を赤らめて話す幸村
それにも負けまいとくってかかる
傍にいた信玄は、腕を組みながら二人の様子を見ていたが
しばらくして、そっと部屋を出て行った
「だ、だが…お館様も…お、うぉ館様!?」
「信玄様!どちらですか!?」
いきなり二人きりになったことを知ったからか、若い二人は口篭もった
はうつむいている
幸村はしばらく窓の外を見ていたが、ちらりとを見た
透き通るような白い肌
化粧はほんのりとしているが、化粧をしていなくてもおそらく美人であろう
華奢な腕は少し大きめの傘を持っていて、着物は随分高そうなものを着用している
いわば、箱入り娘のお嬢様(美人オプション付き)
幸村は、どうしたらよいものかと頭をかいた
少し前に信玄から縁談の話がある、と聞かされたのは憶えているが、まさかいきなり婚約者が来るとは思っても見なかった話である。
幸村はとりあえずいつまでも信玄の部屋にいるわけにはいかないと思い、
の細い手首を掴んだ
びくりと震える
どうやら緊張しているのはこちらだけではないらしい
幸村はぶっきらぼうにの手をひくと、部屋を後にした
「どちらに行かれるのですか」
「とりあえず某の部屋へ来ていただく」
幸村の部屋―――――――
これから自分は一生そこで暮らすのだ(真田の本家かもしれないけど)
幸村の傍で、幸村の横で、幸村の隣で
(だぁあぁぁぁぁ〜っっっっ!!!!考えただけでも虫唾が走る!!!!!!!!!!)
男が嫌いなわけでもない
男が怖いわけでもない
ただいきなり、可愛い&カッコイイ&腕っぷしが強い&女官に評判の良い、真田幸村が相手と考えれば別問題である。
家柄は申し分無く生まれたが、いわばこれは政略結婚(まだ婚約だけどね)
家からの期待を背負って、父からの信頼を背負って、やってきたのだ
それはわかっている、十二分に解っている
―――――――――でも、青春時代を歩きはじめたばかりのは、おしゃれもしたいのです
恋もたくさんしたいのです、友人もつくりたいのです、それを一人の男に縛られるなんて
(冗ッッ談じゃないわ!!!!)
見たかんじでは、ほんのりと頬を染めた少女が、婚約者(イケメンオプション付き)にひっぱられていく微笑ましいシチュエーション
でも、少女の腹の中ではどす黒い考えが幾つもうずまいているのだ
全くもっておそろしい女子である
悶々と考えをめぐらせていると、通常の扉よりも少し大きめの扉の前についた
幸村がゆっくりと扉を開く
誘導されて中に入ると、幸村は安心したかのようにから手を離した
(あ、手首赤くなってる…。こんんんののぉおお!!!!
よくも様に傷≪数時間で治る≫をつけてくれたわね!!!!!
どういう仕返しがくるか、わかってんでしょぉねえ〜?????)
ばきり、と拳をならそうとすると幸村が奥の部屋から急須を持ってきた
左手には湯のみが二つ握られている
「幸村様、私が致しますわ。」
「あっ、あぁ…、かたじけないでござる…」
幸村から急須を受け取ると、さっさと茶の準備にとりかかる
箱入り娘とはいっても作法は完璧にしつけられている為
茶を淹れるなど屁のカッパである(←死語)
「幸村様、どうぞ」
「すまない」
は幸村に湯のみを渡すと静かに椅子についた
視線を少し上にあげてみると幸村がじっと湯のみを見つめていた
「幸村様?」
の声にはっと我に返った幸村は、慌てて茶を飲んだ
その時、慌てて飲んだせいか、湯のみから熱いお茶が零れた
「熱っ」
「殿!!!」
丁度真下にいたに茶が零れ、は茶の熱さに顔を歪めた
が火傷をした部分の人差し指を、幸村が素早く掴んだ
ゆっくりと、スローモーションのような早さで
が目にした光景、瞬きをゆっくりとしてもう一度見つめなおしても変わらない
の人差し指は、幸村に咥えられていた
今まで十五年しか生きてこなかったが、男と近くに居ることは殆ど無かった
その男に、指を咥えられている
しかも会って間もない男に
「ぎゃあああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」
「ぐわぁっ」
右耳から左耳まで抜けるような甲高い悲鳴にバチン!!とデカイ音が響いた
の必殺平手打ちは見事命中し、幸村はドサリと後ろむきに倒れた
「真田幸村!!!!!!!私は絶対に貴方を許しませんからね!!!!!」
大きな音をたてて扉がしまり、部屋の壁がみしりと音をたてた。
ゆっくりと起き上がり、叩かれた頬をおさえると数回瞬きをした幸村
ふ、と自分の手を見つめるとそこには未だ少女の温もりが残っているような気がして
自分のしたことにようやく気付いた幸村は顔を夕陽のように赤く染め上げた
アトガキ
ハチャメチャなヒロインバンザイ!
強烈上等!