家の息女とあろうものがそのようにはしたなく走ってはなりませんよ」

「お前は我が家の望みとなるのだぞ、

一身に期待を背負わされた日々
父と母の声が、の夢の世界でこだました










     嫁に来ましたッ!

          act.5 突発的現象














は柔らかい寝台の中で身動きをした
少しずつ覚醒していく意識
最後に暖かな夢の中で見た母と父の姿を思い出した



「母様と最後に話したのはいつだったかしら・・・」



小さくため息をつくとは信じられない光景を目の当たりにした



「なっ・・・な!」



寝乱れた自分の着物
慌てて正そうと思えども、胸元に幸村がうずくまっていた
普通の女人ならば母性本能を刺激されそうなほどのあどけない寝顔
すりすり、と頭を押し付けてくる幸村を見ては再び手のひらを振り上げた



バシィン!!!!!



「ぐわぁっ!」
「真田・・・幸村ぁ!!!」
「・・・殿?」


真っ赤に腫れた頬を抑えながらいまだ焦点の合わない虚ろな目でを見つめた
顔中真っ赤になったは慌てた様子で着物を直していた


「あ、あなた様はどれだけ私を怒らせれば・・・!」
殿は、甘い香りでござるな。某、思わず寝入ってしまいましたぞ。」
(反省してない・・・!)
「それに、暖かくて柔らか・・・ぐわぁ!」


右頬に次いで左頬までが赤く腫れあがった


「許しませんわよ、真田幸村!」


寝台を勢いよく降りるとミシリと床が軋むような音がした
扉を蹴破るような勢いで蹴開けると転がり込むようにして廊下に出た
入り口に控えている女官たちが驚いて後ずさり、道が出来た
その花道のような廊下を優雅に、という言葉も忘れて駆け出した


夜の闇に、瞳が慣れていく
どこをどう走ったのか、火照った頬の熱は下がることを知らない
もしかしたら、帰れなくなるかもしれない
そんな想いが頭をよぎったが、どうでも良かった

月は夜空に爪痕を残すかのように輝いている
星はの心情を知ってか、明々と草原を照らしていた


「ここは・・・時松?」

ざぁ、と木々が風に揺れる音が耳を打った
威風堂々としたいでたちの大木


「時松・・・。」
「あのさぁ」
「ぎゃあっ!」
「・・・だからさ、その強姦にあってるみたいな叫び声やめろって」


は辺りを見回した
しかし、聳え立つ時松以外に人影は見当たらない
聞こえてくる声は、忘れるはずもない声
猿飛佐助の声だった


「ど、どこにいらっしゃるのですか!?猿飛さま!」
「それより、前見たほうがいいんじゃない?」


言われて前を見ると、思わず息を呑んだ
先ほどの幸村とのことも消し飛んでしまうほどの衝撃

険しい表情の野犬が、こちらを見て唸っている
叫び声も、あげられないほどの恐怖感が全身を駆け抜け、
足が震えたその時、衣を切り裂く音が聞こえた

足元を見るやいなや、鈍い痛みがふくらはぎに走った
赤い紅葉模様が桃色の着物に染みた
傷跡を見れば、絶望的な気持ちになった


「うそ・・・。いや、助けて・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「いや、いやぁ!父様、母様ぁ!」
「・・・成るほどね」


いきなり目の前が真っ暗になった
冷たさで初めは解らなかったものの、自分の目を覆い隠しているのは人の手だと解った
耳を澄ませば静かな息遣いが聞こえてきた


「女の子はあまり見ないほうがいいぜ」
「え…?っ!」


確かに耳を打った悲惨な音
何かが何かを切り裂いた音と、生き物が苦痛の悲鳴を上げた音
しばらくして土を蹴り上げる音がいくつかして静かになった


「ほら、もういいぜ」
「…あ…い、今何を…」
「知りたいのか?」


視界を遮られていたものがどかされて、一番最初に目にしたのは佐助の冷たい瞳だった
前回会ったときとは恐ろしいほどの豹変振り
この人は、本当に猿飛佐助なのかと目を疑った


「殺したんですの…?」
「………………悪かったな、痛い目に合わせて。
 怪我したところ、見せてみろよ」


自分の発言を無視したことにも少し腹が立った
しかし、そんなの様子を知っていてか、無視を続ける佐助
の応答も聞かないでの足を見るためにしゃがみこんだ


「ん…?お嬢さん、このもう一つの怪我はなんだ」
「そ、それは城下町で…って何勝手に触ってるんですか!」
「あっはは、嫌だなー。ちゃんと断ったじゃん」


バチンと腕を振り払ったが、逆にこちらの腕を掴まれてしまった
黙ってろ、と耳元で低く囁くと再びしゃがみこむ佐助
さすがに顔面に蹴り技を繰り出す訳にはいかないのでここは大人しく言うことを聞くことにした

衣を裂く音がしてから自分を足が止血されていった
びり、と走った痛みが辛かった


「よし、終了」
「ありがとうございます…」
「どういたしまして。にしても、お嬢さんホントに箱入り娘だったんだな…。
 家の息女だって聞くからてっきり強いのかと思ってたんだけどさ。」
「なっ…も、もしかしてそれで黙って見てたんですの…!?」
「あぁ。この間の怪力技もあるし、大丈夫かなーって」


この男、いっぺんどついたろうかという考えが頭をよぎった
しかし、肝心の拳は未だ佐助に抑えられているので、何も出来ないのが現実だった
すでにその行動さえも佐助が計算していたのだ


「そうだよな…、武士だったら、こんなに色白くないか…。」
「ちょ、ちょっと!何見てるのよ…!」


じろじろ、と足を見る佐助に気づいて慌てて裾を戻した
満足げな表情を浮かべている佐助は、前と同じ雰囲気を取り戻している


「試したりして、悪かったな。部屋まで送ってくよ」
「け、結構ですわ。」
「まぁそう言うなって」


文句を言おうと再び口を開けば、佐助のてのひらに抑えられた
視線で離せ、と呼びかけても悪戯っぽく笑う佐助の顔が見えるだけ
は観念したのか、佐助の服を強く掴んだ


「お嬢さん、真田の旦那の正室なんだってな」
「私はまだ婚約者よっ!」
「でも近いうちそうなるだろ。お館様もすっかりその気だぜ」
「・・・・・・・そういえば、あなた武田軍の方なの?」
「・・・あぁ。」


以外にそっけなく、あっけなく返事が返ってきた
佐助の胸から視線をそらして反対側を見ると、見慣れた風景があった
すでに時刻は深夜で、見張りの兵以外起きている者はいないかと思いきや、
城中の灯りが明々と付いていた
時折、幸村の泣き叫ぶ声と信玄の怒鳴り声が聞こえてきた


(……これからあそこに帰るかと思うと、吐き気がするわ…)


呆れかえりながらは佐助の動きに揺れていた


「ほら、ついたぜ」


が降ろされたところは幸村の部屋の窓辺だった
女官が開け放っていたので、中に入ることは容易かった


「じゃな、また会うこともあるだろうよ」
「あ、ちょっと待っ…!……人の話は最後まで聞きなさいよーっ!」


闇夜に消えていく影
はそれを見つめながらぼんやりとしていた

再び痛み出した傷で現実に戻り、これからどうやって皆に説明をするのかと思って冷や汗を流した




















アトガキ

なんだろうか…、この異常な長さは。
このお話が書きたくてこの連載を始めたも同然なのですが、ここまで膨れあがっちまうとは…!
私の中の佐助は、こんな感じ。(幻滅しちゃったらごめんなさい…!)
少し冷たいところもあるんですけれど、ヒロインがきっかけでちょっとずつ人間味が増してきます。
…次回は一体どうなっちゃうんでしょう?ぶっちゃけ何も考えてません(笑)
ただ、お館様をもうちょっと出張らせてみようかな、と。
なので必然的にゆっきーがメインになりそうです。