舞い込んだのは、一通の合格通知。

「よ…よっしゃあああ!」

大きくガッツポーズをしながら背中をそらせて喜びを表現しつつ、私は叫んだ。その近所迷惑な大声はあたりかまわずとどろいたと言う。後に私の母はそう語るのだがそんなことは今の私にとって問題ではなかった。まったくもって関係ないのだ!

「ごごご合格しちゃったぜおいちょっとどうするよ私この感動を何と言い表せば良いのかまったく分からないよもううんそれぐらい感動、感動してるようわーもうどうしよう!」

ドタドタと派手な音を立てて階段を駆け上った私はベッドにダイブした。どふん!とベッドに体が沈む。えへえへと絶え間なくこみ上げてくる笑いをおさえないまま暫くごろごろと転がっていると、ふと頭にゴツン!と何かが当たった。この至福のときを邪魔するものとは一体何なんだ!ぎろりっと睨みつける気持ちで体を起こしてみれば、シルバーの固体が目に入った。

「…アッ!そーだ私、ブン太先輩に連絡しなきゃ!」

ブン太先輩とは。立海大附属高校に通う1年生で私の先輩であり、そしてこここ恋人だったりする格好良い人のこと。そう、私は現在立海の中学3年生なのだ。どうしてもやりたいことがあるから、とある女子高に通いたくて楽なエスカレーター制度も憧れのブン太先輩との高校生活も(てかこっちの方が悩ましかった!)蹴って、受験をし、そして合格したのである。
私高校は外部に行きます!と宣言したとき、ブン太先輩は心なしかくしゃっとした笑みで応援すると言ってくれた。そして、合格してもそうでなくても、結果は一番に教えて欲しいと。

どきどきどき。胸を高鳴らせながら、そっと携帯電話を握った。すぐさまその中からブン太先輩の番号を呼び出して、呼び出しボタンをピッ。

プルルルル、プルルルル、

ブツッ

『おーブン太だぜィ』
「ぶぶぶブン太先輩ですか!」
『そー言ってんじゃん…なに、どうかしたん
「じつはですね!私高校、受かったんです!えへえへへ」

にへにへと笑みがこぼれてしまう。ブン太先輩と電話をするのは久しぶりだった。高校、中学と通う場所が変わってからもしょっちゅう会ってたし、電話くれたし、メールもしてたけど、私の受験日が近づくにつれて先輩は遠慮してくれたみたいでそういうのは最近減っていたのだ。だから、この電話はたぶん、1週間以上ぶりのそれ。耳元で聞こえる声がくすぐったくって嬉しくって仕方なかった。だから私は、その言葉の後、先輩がちょっと沈黙したことに気づけなかった。

『…そっか、おめでと。な、今家出られるか?』
「え?」
『顔、見たい』

ぞくり。
う、わああ。ななな何ですか今の声とか言葉とか発音とか!!ぜぜ全部キた!キたあ!ふおおお!という謎の悲鳴を口に手のひらをあてがうことで抑えた。?と先輩の声が再び聞こえたことで、はっと我に返る。

「すすすすいません!ごめんなさい!えっとはい、だいじょぶです!」
『ん、そんじゃ10分後にあの公園な』
「はははい!」

動揺したまま返事をかえすと、ブン太先輩は少し吹き出してから、じゃ、と電話が切られた。ブチ、という音を耳にしながら、私はすくっと立ち上がる。暴れすぎてぐちゃぐちゃになった部屋着を脱ぎ捨てると、あわただしく着替えをはじめた。




「お、お待たせしましたあ…っ!」

いやに手間取ってしまった。それというのも、会うのは電話すること以上に久しぶりすぎて、どれを着ていけば良いのか迷っていたからだ。そのせいで、約束の時間を5分もオーバーしてしまった!ううう、なんたること。この寒空の下、ただでさえ部活で疲れているはずの先輩を余計に待たせてしまうなんて!膝に手をついて、ぜえぜえと喘いでいると、さっきまでベンチに座っていたブン太先輩が目の前に立っていた。

「無理な時間に設定しちまったかな。マフラーまでがたがたじゃん」

ぐるぐると巻くだけで終えていた私のマフラーを一度取り上げて、ブン太先輩は苦く笑った。…大人だなあ。去年のブン太先輩はこんな笑い方ほとんどしなかった。かんぜんに男の人、っていうかんじだ。ぼうっとしていると、ブン太先輩が私の首にふわりとマフラーを巻きつけなおしてくれる。ほらできたぜい、という声がして手が離れると、きれいに整ったかたちのマフラーが目に入る。

「あ、ありがと、ござ、ます…」
「気にすんな」

ぽんと温かい感触が頭の上に置かれて、私は笑みをこぼした。久しぶりだ。何もかもが。久しぶりすぎて、すべてが嬉しくて恥ずかしくて幸せだった。もしかしたら、合格通知がきたこと以上に。
暫く頭をなでてくれた後、座るか、とブン太先輩は私の手を引っ張った。ベンチに隣同士に腰掛けて、ふうと息をついて。冷たい空気の中、吐く息は白くなって消えていく。

「いきなり悪ぃな。さみーのに」
「え。やー、も、ぜんぜん大丈夫ですってば!久しぶりにブン太先輩に会えて私、その、ううう嬉しいですもん」

大事なところでどもってしまうのはいつものこと。ぷっとブン太先輩が小さく吹き出して、私の目をじっと見つめて微笑んだ。

「ん、俺も。顔見れて嬉しい」

…ぶっ、ブン太先輩は私を殺す気なの、でしょうか。どくどくと血液がどんどん速く速く、流れていくのが体全体で分かる。も、寿命縮まった。絶対縮まってる私。いつもならこんなにも過剰な反応は、ないはずなのに、久しぶりだということが拍車をかけてるみたいだ。なんていうか、うん。私今、すごく幸せ。

「合格おめでと。やったじゃん」
「えへへ、ありがとです」

ぐりぐり、とまた頭を撫で回して先輩が笑った。それに私もにへえと笑い返す。
と、ブン太先輩がふとこう言った。

「これで春からは女子高か。…まあ、変な虫つかなくて良いけど」
「ふむ?」
「やっぱ、お前と2人で、立海の名物カップルやってみたかったな、なーんて」

くしゃりと情けなく、ブン太先輩は笑った。まるで冗談を口にするかのようだけど、嘘には思えなかった。だから私は申し訳ない気持ちと、あのときのブン太先輩がつくった表情の意味を知った。
前かがみに膝にひじを置いて頬杖をつく、ブン太先輩の横顔を見つめる。それからにこおと笑った。

「そ、ですね。私もそれしたかったです、けど!こうなったからには、他校生でないとできないことやりたいです!」
「…たとえば?」
「えーと、ほら校門で待ち合わせとか!…アッでもブン太先輩部活…ッ!あ、あ、じゃあじゃあ…ううん…」

…お、思いつかない。他に他校生だからこそ、できることが!ほ、他にもあるはずなのに!ううんううんと言葉に詰まって考え込んでいると、またブン太先輩が吹き出した。

「むーりすんなって。ごめんな変なこと言って」
「いえ…」
「んー、じゃあ、さ」

ぱっ、と。ブン太先輩が私の顔を覗き込んで笑った。

「俺が部活のとき、見にきてくれよな。これが俺の彼女だって、自慢してやっから」
「も、もう!ブン太先輩ってば!」

ぱしんと軽く叩くと、ブン太先輩は あはははと笑った。いつもどおりの明るい笑い声にほっとする。
ふと、私の見つめていた膝元に影がかかる。

「本気だからな。何かあったらすぐ立海の高等部にかけこんでこいよ。いつでも待ってる」

ちゅ、と鼻の頭に口づけて、ブン太先輩は小さく笑った。


(ああもう、私、ブン太先輩のことが、ちょう大好きです。)


情熱、セレナーデ


(…俺も。超大好きだぜィ、)




(070213)(環琥宇 鈴華)
志望校合格おめでとう!の気持ちを込めてブン太を。変態なヒロインでごめんなさい。
文字の大きさによって書くテンションが異なるので、このサイズで執筆したがためにとてもハイテンションなおはなしになりました。男前というか年上なブン太くんは書いてて楽しかったです。本当におめでとう!そして私は何故べんきょうもせずにこんなことしてるのでしょうね!
とにかくおめでとうです!


(珂葉百合)
ブン太くん!大好きだーvv
そうだよね〜ブン太くん、いつも可愛い感じだけど、たまにこんなカッコイイの書きたくなるよ。そしてまさにそのカッコイイブン太くんだよ、コレ!!
わざわざ素敵なブン太くんを下さってありがとうです、鈴ちゃん!