どうかこの想いをいつまでも、








、3番間違っているよ。(2x-4)(2x-4)じゃなくて、そこはそれを二乗するんだ」
「あ、そっか。ありがと精市」




消しゴムで間違った解答を消しながら礼を述べると、フフッと穏やかに笑った精市が「どういたしまして」と返してくれる。
ここは病院で、本来ならこんな勉強なんて放っておいて精市とずっと喋っているのに、今の時期はそうもいかない。
…なんたって、一週間後は中間テスト。
あたしは苦手な数学の勉強中、今年は受験生ということもあり緊張感を持って勉強に励んでいる。



入院しなければならないほどの重病だけど、そうとは思えないくらい他人への気遣いを忘れない精市。
けど、彼だってあたしと同じ14歳なんだから、テニスがしたいとか、学校で皆と勉強したいとか、思っていることだろう。
苦しんでいるのにそれを見せてくれないのは、彼の優しさだろうけど、
やっぱり、彼女という立場としては、弱さもぜんぶ見せて欲しいのが本音。
…ワガママ言うと精市が困っちゃうだろうから、絶対言わないけどね!


微笑みながら、必死に数学の勉強をするあたしを見る精市の目は優しい。
周りには、テニス部の連中からの見舞いの品がたくさん並んでいて、なんとも豪勢なつくりに仕上がっている。
しかし連中、限度というものを知らないのか…とつくづく思う。
果物の盛り合わせに始まって、箱ごとのガムだの、大学ノート20冊だの、
内職で育て上げた指先の器用さを生かしてか、繊細なビーズアクセサリーだの、ストリ●トファイターだの、
ダーツセット一式だの、将棋セットや五輪の書…挙句の果てにはメガネまで。(精市の視力は正常だから!いらねぇよ!!)
なんでもかんでもやれば良いってもんじゃない、そこら辺を分かってくれないのかあいつらは。



そしてその中でも異臭を放つのが…今、彼がとても幸せそうに手に持っている、花瓶に生けられた花だろう。
少ないだろう…こんなにも、花が合う男は!




「精市…似合ってるね、その花……」
「そう?ありがとう。看護婦さんから貰ったんだ、良い匂いがするよ。ほら」




ちょいちょい、と手招きする精市に近づくと、なるほど、とても甘い香りがした。
けど、鼻炎気味なあたしには、花粉をとっていないこの花がとてもつらくて、思わずくしゃみが飛び出してしまう。
汚いけど、ずず、と鼻をすすりながら、その花を見つめる。この花は確か――…




「…ハナミズキ?」
「あ、よく知ってるね。そう、ハナミズキ。これをくれた看護婦さんが言っていたから、間違いないと思う。
 木なのに折ってしまうのはかわいそうだったけど、あまりにも綺麗だったから、つい…だってさ」
「うん、折っちゃうのはかわいそうだけど、綺麗だって気持ちはすごく分かる」




うん、と頷いて、またくしゃみをする。ああもう本当、この体質だけはどうにかならないかな、と思っていた矢先。
ベッドへもたれていた精市がその体を乗り出してきて、あたしの髪の毛に手を伸ばしてきた。
目の前に彼の胸板が飛び込んできて、思わず体を退けそうになったけど、精市の左手がやんわりとそれを阻んだ。
それから、花瓶から伸びているハナミズキの、
一番綺麗に咲いている花を少し下からポキッと手折ってしまって、それをつまんであたしの耳に、そっとかけた。

そのときに触れた指先はとても温かなもので、あたしの頬も少し熱くなった。




「うん……よく、似合う。かわいいよ、
「な、っ………あ、ありがと…」




何言ってるの、と言いたかったけど、とても穏やかな顔で笑いかけてくれる精市を見ていると、反論する気も失せてしまう。
素直に礼を言えば、一層笑みを深くさせて、髪の毛の流れに沿って優しく頭を撫ぜてくれる。
前かがみな体制が少しきつくなってきたので、
手持ち無沙汰だった手を精市が寝ているベッドの空いているところに置けば、ぎしり、と軋む音がした。




「ねぇ、この花取ってもいいの?木のところがチクチクするんだけど…」
「ん?んー…ダメ、かな。だってかわいいし。そのまま、勉強再開してほしい」




頭を撫でるのをやめて、かわりにあたしの髪の毛に指を通して梳きながら、にこっと笑った精市はそう言う。
?マークが一つも入っていないあたりが彼らしい。そして有無を言わせぬ空気も彼らしい…。
素肌に触れる木はとてもじゃないが気持ち良いものではなかった。
けれど、精市が挿してくれたものだと思うと、取り去るのはなんだか忍びない気持ちになってきた。


仕方ない、という風にため息をつく。それは肯定の意で、それを理解できたらしい精市は満足げに微笑んだ。




「それじゃあ、勉強再開するね」
「ああ。分からないところがあったら俺に聞いてくれ、教えてあげるから」
「うん」




授業を受けているあたしより、
独学で勉強している精市の方がなんで出来るのかとかいう疑問はあるけど、あえて口にしないまま頷く。

名残惜しげに離れた幸村の手は、そのまま元の位置へ収まるかと思えば、そうではなく、
肩へと落ちているあたしの髪を一房すくい、目を細めてそれを見やった。
それから、目線をあげて、あたしの耳にかかるハナミズキの花へ視線をやり。




「…ねえ、ハナミズキの花言葉って、知ってる?」
「花言葉?んー、そっち方面は得意じゃないんだよねー…精市は知ってるの?」
「もちろん。……でも 教えない」
「えっ」




流れからして教えてくれるものだと思ったのに、彼の口から飛び出たのは意外なセリフだった。
驚くあたしを尻目に、精市は悪びれもせず声をたてて笑うと、一房すくいあげた髪の毛へ触れるだけのキスをおとした。
途端、かあっと顔に熱が集中するあたしなんて気にしないで、その一房から手を離す。




「うん、やっぱり、ハナミズキも良い香りだけど、の方が甘い匂いがする」
「な、なに言ってるの精市!(オヤジ…いや、変態くさいよ!)」
「フフ」
「(え、なんかコワ!もしかして考えてたこと、バレてる!?)」




途端黒い笑みを放ち始めた精市から急いで身を引くと、あたしはまた数学のノートに向き合った。
混乱している頭を必死に動かして目の前に並ぶ数式を見てみるけど、
うまく働いてくれないその頭では、そんなものは理解しがたい暗号の羅列にしか見えない。


後ろから聞こえる笑い声に混じる黒い呟きに怯えながら、試験勉強に取り組むのだった。











あとがき

甘くなってないのは分かるけどどうしたら良いかなーと思いながら、気がつくと終わってしまっていた作品。
幸村さんの得意科目は数学・英語・美術だったので、どうせだから数学に。
そしてどうせだから因数分解にしておきました。まあ、初めのセリフにあったような間違いはしないとは思いますが。
私的に幸村さんは口説き上手。好きな子にはとことん優しくしてくれます。ただたまに黒さが垣間見えたり。
あと、皆さんからの贈り物、何が誰からか分かったでしょうか。多分分かるかとは思いますがー。特にメガネとか…

勉強している場面、3cmほど(どれくらいだ)しかないですが、まあ頑張ったんで許してやって。

偽者くさい幸村さんで失礼しました。あとちなみに、ハナミズキの花言葉は下に。反転で。

ハナミズキ…「私の思いを受けてください

   環琥宇鈴華

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幸村さんんんんん!!!
何回読み直しても麗しいですねv
微妙に柳生のキモさも見えるという…、さすが柳生キモ仲間(笑)
本当にありがとー。鈴ちゃん。

   珂葉百合